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銅価格上昇の背景と恩恵を受ける関連銘柄

公開日:2025年04月02日
Note

銅価格上昇の主な理由

需給バランスの逼迫

近年、銅市場では需要の増加に対し供給拡大が追いつかず、需給バランスが逼迫傾向にあります。特に新型コロナからの景気回復局面で中国をはじめとする需要拡大が顕著となり、世界的に在庫が減少しました。実際、2025年初め頃にはロンドン金属取引所(LME)の銅在庫が4週間で18%も減少し、在庫の約半数が引き渡し指定(キャンセル)される状況でした。こうした在庫低下や供給余力の乏しさは価格を押し上げる要因です。また銅鉱山の新規開発は環境規制やコスト増で難航しており、大手商社の調査によればエネルギー転換に伴う需要増によって2030年代に年間650万トン規模の供給不足が生じる可能性も指摘されています。このような将来的な構造的供給不足観測も銅価格を高位で支える一因です。

脱炭素・EV関連需要の増加

脱炭素社会への移行や電気自動車(EV)の普及によって、銅需要は急増しています。銅は電気を通しやすい特性から、再生可能エネルギー設備や送電網、蓄電池に不可欠であり、「グリーンフレーション」と呼ばれる資源価格上昇現象を招いています。特にEVでは1台あたり約80~90kgもの銅がモーターやバッテリー、配線に使用され、ガソリン車の4倍に達します。さらにEV用急速充電器にも1基あたり約8kgの銅を要し、高出力化に伴い使用量が増加する見込みです。欧米を中心にEV販売台数が増加し(例えば2022年に世界販売が前年比+32%の1,363万台)、風力・太陽光発電など再生エネ設備の拡大も相まって銅の新たな需要源が右肩上がりとなっています。日本メーカーの調査でも、EVや再エネ向け需要増加で今後の銅需要は旺盛との見方が示されています。総合商社の三井物産も「世界的な環境意識の高まりによるEVや再生エネインフラの拡大で銅需要は今後一段と増加が見込まれる」と指摘しています。このように脱炭素化に伴う新規需要の拡大が銅価格上昇を強力に後押ししています。

地政学的リスクの高まり

主要生産国における政治的不安定や資源ナショナリズムも供給リスクとなり、銅相場を押し上げる要因です。世界の銅生産の約28%を占めるチリでは、2021年の政権交代後に鉱業税の引き上げや国有企業関与拡大など資源政策の不透明感が生じました。チリ政府はリチウム産業国有化を打ち出すなど資源戦略を強化しており、銅鉱業についても世界で最も重い税負担を課す可能性が指摘されています。そのため国際鉱業大手は将来のチリ投資の採算性を再検討せざるを得ず、新規供給の遅れにつながる懸念があります。

また世界第2位の銅生産国ペルーでも近年政情不安や抗議活動により鉱山の操業停止が相次ぎました。さらにロシアのウクライナ侵攻(2022年)によるエネルギー価格高騰や物流混乱も金属価格全般の上昇圧力となりました。こうした地政学リスクにより「安定供給」への不安が高まると、市場では安全在庫の積み増しや投機的な買いが入り、価格が上昇しやすくなります。資源メジャー各社も銅を「経済安全保障上重要な金属」と位置づけ、権益確保に動いており、需給面での地政学リスクプレミアムが織り込まれつつあります。

金融政策・投機マネーの動向

銅価格は金融市場の動向や投機資金の流入にも影響されます。特に米国の金融政策はドル相場を通じて銅などコモディティ価格に波及します。一般に米ドルが強い(米金利上昇)局面では非鉄金属は割高となり価格上昇が抑制され、逆にドル安や低金利環境では資金流入により価格が押し上げられます。

例えば米連邦準備制度理事会(FRB)が金融緩和姿勢を示した2020年前後には、インフレヘッジの観点から商品指数への資金流入が強まり、銅価格も上昇に弾みがつきました。一方、2022年に米利上げが進行すると景気減速懸念から銅は一時調整局面となりました。しかしその後2023年末頃には利上げ停止観測や中国景気対策への期待で再び銅相場は持ち直し、2024年5月には1ポンド=5.20ドル(約1トン当たり11,500ドル)と史上最高値を更新しています。さらに米国では銅を重要戦略物資とみなし、輸入関税検討の動きも出ています。金融政策の変化や政策思惑に伴う投機マネーの動きが、銅価格の短期的な変動要因となっているのです。

このように、ファンダメンタルズ面の需給ひっ迫と、新エネルギー分野からの構造的需要増、そして地政学リスクと金融要因が重なり合って、現在の銅価格上昇をもたらしています。


銅高で注目される日本の関連上場企業

銅価格の上昇局面では、銅の生産・販売で利益を得る企業の業績拡大と株価上昇が期待されます。日本にも銅に関連する鉱山開発会社、非鉄金属メーカー、商社が複数上場しており、それぞれ事業形態は異なりますが銅高の恩恵を受けると見られます。以下に主要な銅関連銘柄を選定理由とともに紹介します。

住友金属鉱山(5713)

国内最大手の銅生産企業です。鉱山開発から製錬まで手掛け、チリや米国など海外の大規模銅鉱山に資本参加しています。例えば米フリーポート社が操業するモレンシー銅山(世界有数の露天掘り鉱山)に15%出資(住友金属鉱山と住友商事の共同出資)しており、ペルーのセロ・ベルデ銅山など世界各地で銅権益を保有しています。

国内では愛媛県の東予工場(別子銅山に由来)で年間40万トン規模の電気銅を製造し、これは国内有数の精銅生産量です。昨今の銅価格上昇により同社は金属事業の採算が向上し、金・ニッケルと並ぶ主力の銅部門が収益拡大に大きく貢献しています。実際、住友金属鉱山は電動化ニーズを睨んで豪州の有望銅鉱床にも400億円規模で出資を決定するなど、積極的な権益拡大を進めています。

株価は資源高を追い風に中長期で上昇傾向にあり、2024年前半には銅価格の史上高騰に合わせて一時年初来高値を更新しました(その後はメタル市況調整で変動)。

三菱マテリアル(5711)

銅の製錬・加工を主力とする非鉄金属大手メーカーです。傘下の直島製錬所(香川県)や伊精錬所(茨城県)で銅精鉱から電気銅を生産しており、国内トップクラスの精銅メーカーの一つとなっています。また電子材料や伸銅品(銅板・銅管)事業も手掛け、銅の川下用途にも広く関与しています。

銅価格上昇局面では、在庫評価益や加工マージン改善を通じて金属事業の利益拡大が期待できます。直近では設備トラブルやコスト増で利益圧迫要因もありましたが、2023年度は銅価高止まりにより金属セグメント収益は底堅く推移しました(想定銅価の上振れが売上増要因)。さらに同社は都市鉱山(電子スクラップ)からの銅回収にも注力しており、資源リサイクル推進が追い風です。

株価は非鉄市況に連動しやすく、2023年後半から徐々に切り返しています。

三井金属鉱業(5706)

銅を含む非鉄金属の精錬・加工メーカーです。旧財閥系の鉱山会社を源流に持ち、亜鉛や鉛の製錬が主力ですが、銅事業ではJX金属との合弁であるパンパシフィック・カッパー(PPC)を通じて日立・佐賀関の製錬所操業に参画しています。これにより銅地金の生産・販売に関与し、銅価格上昇は収益押し上げ要因となります。

また同社は極薄銅箔「MicroThin™」など電子材料用銅製品で世界的シェアを持ち、EVや5G通信向けの需要増に応じた増産投資を行っています。特にリチウムイオン電池用の電極箔や高密度配線板向け銅箔はEV普及とデータセンター拡張で需要拡大が見込まれており、事業の成長ドライバーです。

同社は鉱山保有こそ限定的ですが、製錬~電子材までバリューチェーンを有する強みで銅高メリットを享受できます。株価は2021年以降やや低迷していましたが、足元ではEV関連銅製品の将来性に期待した買いも入りつつあります。

住友商事(8053)

総合商社として資源ビジネスに強みを持ち、銅価格上昇の恩恵が期待される銘柄です。住友商事は住友金属鉱山と連携して世界各地の大型銅鉱山に出資しており、米国モレンシー銅山やチリのシエラゴルダ銅山など6つの銅鉱山プロジェクトに参画しています(具体にはモレンシー、セロ・ベルデ、カセロネス他)。

例えばモレンシー銅山では住友グループ合計で15%の権益を持ち増産プロジェクトにも出資しました。これら持分鉱山から産出される銅の売却益や配当は、銅価高騰時に大幅増収増益をもたらします。実際、商社各社の資源部門は2022~2023年に記録的な利益貢献を果たしており、住友商事も金属資源分野で過去最高益を計上しました(銅・石炭価格上昇による)。

加えて住友商事は自動車部品向けなどの銅製品流通も手掛けており、市況高はトレーディング利益にも寄与します。株価は近年の商社株ブームの中で堅調に推移しており、特に大口投資家による日本商社株への注目(資源エクスポージャーを評価)が上昇要因となっています。

三井物産(8031)

総合商社の中でも資源投資に積極的で、銅にも深く関与しています。チリやペルーなどの世界有数の鉱山への出資参画。金属トレーディング子会社を持ち、日本の銅流通をリードしています。燃料資源から金属まで幅広い資源ポートフォリオを展開しています。

2020年代前半に権益ポートフォリオ再編(チリ銅山売却→北米新規案件投資)を行い、中期経営計画で「銅の価値最大化」を掲げ、低炭素銅プロジェクトにも出資しています。資源高で2022年度は純利益1兆円超えを達成しました。

保有する権益からの収益に加え、グループ内に金属トレーディング子会社(三井物産メタルズ)を持ち銅地金・精鉱の流通でも国内トップクラスです。銅価上昇はこうした商流ビジネスにも追い風となります。株価は過去最高水準を更新しており(著名投資家の参入もあり注目)、銅を含む資源市況が高いほど利益拡大見通しから買い優勢となっています。

主要銅関連企業の比較

企業名(コード)事業内容・銅との関連性最近の業績・ニュース動向株価動向(銅価上昇との関係)
住友金属鉱山(5713)鉱山会社。海外の大規模銅鉱山に出資し、国内有数の精銅生産(年約40万トン)を行う。銅・金・ニッケルを主力とする総合非鉄メーカー。銅価上昇で金属事業の採算改善。近年は米豪で新規銅案件に投資拡大。2023年度は銅価高支えで増収。資源高局面で上昇基調。特に銅史上高値時の2024年前半に株価も高騰。その後は調整も中長期では銅市況と連動した推移。
三菱マテリアル(5711)非鉄金属メーカー。香川・茨城の製錬所で電気銅を製造、銅製品や電子材料も展開。銅リサイクル(都市鉱山)にも注力。直近決算では製錬コスト増で減益も、銅価高止まりで金属部門は底堅い。銅スクラップ回収拡大や設備合理化を推進中。市況連動型で、2022年後半に下落後、2023年後半より反発。銅相場の持ち直しに歩調を合わせ回復傾向。
三井金属鉱業(5706)非鉄金属メーカー。JXと共同のPPC社で銅製錬に参画し精銅を生産。加えて銅箔(MicroThin™)など電子材料で世界トップクラス。銅リサイクルも実施。EV・半導体向け極薄銅箔が成長分野で増産投資を発表。2023年度は車載・通信向け銅材好調。一方、製錬はTC低下や減産もあり収益は横ばい傾向。EV関連銅製品への期待から将来成長を織り込む動き。株価は低迷していたが、脱炭素需要を背景に徐々に見直されつつある。
住友商事(8053)総合商社。海外銅鉱山権益を複数保有し、鉱石から精鉱の販売まで関与。金属素材のトレーディングも展開。資源高で金属資源事業が大幅増益。特に2022年度は銅・石炭高騰で純利益過去最高。最近はチリ銅鉱山への追加投資も検討し権益拡充に意欲。商社株ブームも追い風に上昇基調。2023年以降、配当利回りの高さも評価され高値圏。銅価上昇局面では収益貢献期待で株価押し上げ要因。
三井物産(8031)総合商社。チリやペルーなどの世界的銅鉱山に出資参画。金属トレーディング子会社を持ち、日本の銅流通をリード。燃料資源から金属まで幅広い資源ポートフォリオ。2020年代前半に権益ポートフォリオ再編。中計で「銅の価値最大化」を掲げ、低炭素銅プロジェクトにも出資。資源高で2022年度は純利益1兆円超え。株価は過去最高水準を更新(著名投資家の参入もあり注目)。銅を含む資源市況が高いほど利益拡大見通しから買い優勢。もっとも他資源の影響も大きく総合的に推移。