No Image

第一次トランプ政権期(2017~2021年)の株式市場主要イベントとその影響

公開日:2025年04月07日
Note


画像の有効期限切れです。ページをリロードしてください。


2017年

1月20日: トランプ大統領就任と政策期待 – 2017年初め、ドナルド・トランプ大統領の就任に伴い減税や金融規制緩和への期待から米株式市場が上昇しました。S&P500指数は就任から1か月で約5%急伸し、日経平均株価も円安基調を追い風に上昇しました。短期的には"トランプラリー"と呼ばれる株価上昇が続き、2017年を通じて堅調なスタートを切りました。

8月: 北朝鮮ミサイル危機による一時的調整 – 2017年8月には北朝鮮が日本上空を通過する弾道ミサイルを発射し、地政学リスクが高まりました。この挑発で投資家心理が悪化し、日経平均は一時4か月ぶり安値に下落(8月29日、日経平均は前日比0.7%安)。

10月: 日本の総選挙と株価連騰 – 2017年秋は内外ともに株高が進みました。安倍晋三首相が衆議院解散を表明し、10月22日の総選挙で政権続投が確実視されると、日本株は買いが加速しました。日経平均株価は10月に戦後最長の16営業日連続上昇を記録し、14営業日間で株価が5%以上上昇しました。これは安倍政権の安定継続による経済政策期待に加え、米国の税制改革進展で円安が進んだことが背景です。短期的に記録的な連騰となり、中期的にも「アベノミクス」継続見通しが日本株を支えました。

12月22日: 米税制改革法案の成立 – 2017年末、米国で法人税の大幅減税を含む税制改革法案が可決・成立しました。企業利益拡大への期待から米株式市場は上昇し、法案可決直後にダウ工業株30種平均やS&P500指数は史上最高値を更新しました。この政策イベントは市場にとってポジティブサプライズとなり、短期的に株価を押し上げただけでなく、翌2018年初までの強気相場を後押ししました。

2018年

1月~2月: インフレ懸念による急落(ボラティリティ・ショック) – 2018年初頭、世界的な好景気を背景に株価は上昇を続けましたが、1月末から2月にかけて急激な調整が発生しました。米国で賃金上昇によるインフレ加速への警戒感が高まり、FRBの利上げペース加速観測が浮上したためです。2月5日にはダウ平均が前日比-4.6%(1,175ドル安)と過去最大の下げ幅を記録し、S&P500も4%以上急落。この余波で日経平均も翌日4%近い下落となりました。急落直後は投資家心理が動揺しましたが、経済のファンダメンタルズに大きな変化はなく「パニック的な調整」に過ぎないとの見方もあり、短期的な調整後は比較的速やかに持ち直しました。

3月~4月: 米中貿易戦争の勃発 – 2018年春、米中間の通商摩擦が本格化しました。トランプ政権は3月に鉄鋼・アルミニウム輸入関税を発動し、さらに知的財産侵害を理由に中国からの輸入品に追加関税を予告しました。中国も対抗措置を発表し、貿易戦争への懸念が高まると株式市場は急変動しました。3月22日には米ダウ平均が724ドル安となり年初来の上げを失う場面があり、S&P500も通年でマイナス圏に沈みました。日本株もこの影響で下落し、特に中国向け売上比率の高い企業や機械株が売られました。短期的には関税発表や報復のたびに株価が乱高下しましたが、その後米中が協議を続ける意思を示すと下げ渋る、といった展開を繰り返しました。

10月~12月: 世界的株価下落(景気減速懸念と金融引き締め) – 2018年末にかけ、米国発の株安が世界に波及しました。背景には、米FRBが利上げを進め金融環境が引き締まったこと、米中貿易摩擦で世界経済の先行き不透明感が増したことがあり、市場は弱気に傾きました。S&P500指数は9月の過去最高値から12月末までに約20%下落し、一時弱気相場入り寸前となりました。1930年代以来最悪となる12月相場の下落を記録する一方で、12月下旬にはクリスマス休暇中の安値をつけた後にダウ平均が1,000ドル超反発する過去最大の上げ幅も演出しました。これは米政府機関閉鎖やトランプ大統領のFRB批判など悪材料が重なる中、米中が追加関税を90日間猶予することで合意したとのニュースが伝わり突発的な買い戻しが入ったためです。日経平均も10月上旬にバブル後高値となる24,270円を付けた後急落し、12月には一時19,000円割れとなりました。短期的なボラティリティが極めて高まったものの、年末にはFRBが利上げ停止を示唆し始めたこともあって下げ止まりの兆しが見えました。

2019年

1月: FRBの方針転換と米政府閉鎖の終結 – 2019年初頭、前年末の急落を受けて米連邦準備制度理事会(FRB)が金融政策のスタンスを大きく転換しました。パウエルFRB議長は1月4日に「利上げに慎重な姿勢(patient)」を表明し、市場の不安を和らげました。また、2018年末から続いた米連邦政府機関の一部閉鎖も1月25日に解消され、政治リスクが後退しました。これらを追い風に株式市場は急反発し、S&P500は1月として30年ぶりの大幅高となりました。日経平均も1月4日に付けた年初来安値19,241円から切り返し、2月には21,000円台を回復しました。短期的に悲観ムードが一変し、中期的にもFRBのハト派転換が相場を支える展開となりました。

5月: 米中交渉の決裂と関税引き上げ – 2019年春先には貿易協議の進展期待から株価は堅調でしたが、5月に入って米中交渉が決裂しました。5月5日、トランプ大統領がTwitterで対中関税の税率引き上げを予告すると、連休明けの5月6日に中国・上海株が5.6%急落するなど世界市場に衝撃が走りました。東京市場も大型連休明けに日経平均が下落し、米国市場でもダウ平均が一時470ドル超下げる場面がありました。もっとも「中国代表団が訪米交渉を継続」との報道を受けて米株は引けにかけ下げ幅を大きく縮小し、結局ダウ平均の終値ベースの下げは66ドル(0.3%)程度に留まりました。短期的には関税引き上げショックで乱高下しましたが、米中とも対話継続の姿勢を見せたため、中期的な下落トレンドには発展しませんでした。

8月: 景気後退リスクの台頭 – 夏場、債券市場が発する不況シグナルが話題となりました。8月14日、米国で10年物国債利回りが2年物利回りを下回る「逆イールド」が発生すると、景気後退懸念から株が急落し、ダウ平均は年初来最悪の800ドル安(-3.1%)となりました。S&P500も-2.9%、NASDAQ指数も-3%と主要指数が軒並み年内最大の下げを記録しました。その直前の8月初旬には米中摩擦が再燃し、中国が人民元安誘導(人民元が1ドル=7元台に下落)と米農産品の輸入停止で報復すると、グローバル株式市場が急落しています。日本株も8月初旬から中旬にかけて急落し、投資家はリスクオフ姿勢を強めました。短期的には「逆イールド」や貿易摩擦で悲観が広がりましたが、各国中央銀行が金融緩和に転じるとの期待や米中協議再開の思惑もあり、その後の株価は下げ渋りました。

10月~12月: 部分貿易合意と株価回復 – 2019年末にかけて市場環境は改善しました。10月11日、米中両国が第一段階の貿易合意(Phase One)に達したと発表し、追加関税の見送りや中国の米農産物購入拡大で一致しました。またFRBも7月以降3度の利下げを実施し(金利引き下げに転じる)景気下支えに動きました。これらを追い風に株式市場は上昇基調を強め、S&P500指数は2019年末に史上最高値を更新、年間上昇率は約29%に達しました。一方、日経平均株価も年間18%高となり、2019年大納会の終値は23,656円と1990年以来29年ぶりの高水準で引けました。米中対立という不安材料が和らいだことで短期的な上昇が実現し、中期的にも金融緩和環境の中でリスク資産への資金流入が続きました。

2020年

1月: 地政学リスクと感染症への警戒 – 年初早々の1月3日、米軍がイラン革命防衛隊の司令官を殺害する事件(バグダッド空爆)が起こり、中東情勢の緊張から一時的に原油価格が急騰、株式市場は小幅安となりました。しかしこの地政学リスクは短期間で落ち着きを取り戻します。その矢先、中国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルスの感染拡大が1月下旬に報じられると、市場は次第にリスク要因として意識し始めました。1月27日には日経平均が前営業日比-2.0%と5か月ぶりの大幅安となり、訪日観光客減少懸念から航空・小売などが売られました。同時期、米国株も最高値圏から伸び悩みましたが、この時点では感染症リスクは織り込み途上で、本格的な下落はまだ始まっていませんでした。

2月~3月: 新型コロナウイルスによる株価急落 – 2月後半から3月にかけて、新型コロナの世界的なパンデミックにより株式市場は歴史的な暴落に見舞われました。米国では主要株価指数が2月下旬から急落し、S&P500指数は2月19日のピークから3月23日のボトムまで約34%下落し、わずか1か月で弱気相場入りしました。3月12日にはトランプ政権が欧州からの渡航禁止を発表し、投資家心理が極度に悪化してダウ平均は-10%と1987年の「ブラックマンデー」以来の暴落となりました。東京市場でも連日急落が続き、3月13日の日経平均終値は前日比-6.1%(1,128円安)と2016年11月以来の安値水準まで落ち込みました。この週の日経平均の週間下落幅は3,300円超と過去最大でした。短期的に世界中の株式時価総額が数十兆ドル規模で吹き飛び、市場のボラティリティ指数(VIX)は過去最高を記録するなどパニック的な売りが広がりました。中期的にも各国のロックダウン(都市封鎖)による景気後退は避けられないとの見方が強まり、一時は金融危機以来の危機的な状況となりました。

3月下旬: 前例のない政策対応と株価底入れ – 事態を打開すべく、各国はかつてない規模の金融・財政政策を発動しました。米FRBは3月15日に緊急利下げで政策金利をゼロ%まで引き下げ、直後に無制限の債券購入(量的緩和)を表明しました。米議会も3月27日に2.2兆ドル規模の経済対策(CARES法)を可決し、巨額の資金を市場と経済に投入しました。こうした「何でもやる」との当局姿勢が奏功し、3月下旬には市場心理が改善します。株式市場は3月23日を底に反転し、翌24日には世界の株価が一斉に急騰しました。MSCI世界株指数はこの日1日で+8.4%と、金融危機時の2008年以来となる大幅上昇を記録しました。短期的には政策対応が投資家に安心感を与え、リバウンド(自律反発)が起きました。中期的にも各国の流動性供給と財政出動によって景気の二次的な悪化がある程度防がれるとの見方が広がり、この後株式市場はゆるやかな回復基調へと移行していきました。

夏~秋: 断続的な回復と二番底不安 – 2020年4月以降、主要国でロックダウンが徐々に緩和され経済活動が再開されるとの期待から株価は持ち直しました。ハイテク企業を中心に業績が底堅い米NASDAQ総合指数は6月までに史上最高値を更新し、「コロナ後」を先取りする形で上昇しました。一方で、感染第2波の懸念も根強く、6月中旬には米国の感染再拡大を受けてダウ平均が1日で約7%急落する場面もあり、相場は不安定でした。日本でも7月以降に感染再拡大(いわゆる第二波)が起こり、景気回復の足取りが鈍る懸念から日経平均が一時22,000円台に押し戻される局面がありました。しかし、FRBや日本銀行を含む各国中央銀行が継続的に市場へ資金供給を行い、政府も企業支援や追加の財政策を講じたため、金融市場は再度のパニックには陥らず下値は切り上がっていきました。短期的な乱高下を繰り返しつつも、中期的には「コロナ禍でも株高」現象が進行し、秋頃には米欧日の主要株価指数はコロナ前の水準に接近しました。

8月28日: 安倍首相辞任表明 – 日本では2020年夏に国内政局の思わぬ変化がありました。8月28日、安倍晋三首相が健康上の理由で辞任する意向であると報じられると、市場には驚きが広がり、日経平均は一時2%近く急落、円相場も急騰しました。安倍首相は経済政策「アベノミクス」で株価上昇を牽引してきただけに、その退陣は投資家に不透明感を与えました。ただし後任に菅義偉官房長官(当時)が就任し政策の継続性が保たれる見通しとなったことで、日本株の下落は短命に終わりました。短期的にはサプライズによる混乱がありましたが、中期的なマーケットへの影響は限定的でした。

11月: 米大統領選の結果確定とワクチン朗報 – 2020年最大のイベントである米大統領選は11月3日に投開票が行われ、11月7日に主要メディアがジョー・バイデン氏の当選確実を報じました。選挙直後の1週間でS&P500指数は+7.3%と1932年以来の大幅上昇となり、選挙による不透明感の解消とねじれ議会の成立見通し(急進的な政策が実施されにくいとの期待)を市場は好感しました。同時期、日本株や欧州株も選挙通過を追い風に上昇しています。さらに11月9日には米製薬大手ファイザーが開発中のワクチン臨床試験で「90%以上の有効性」という画期的成果を発表しました。このニュースを受けて世界のマーケットは一段高となり、ダウ平均とS&P500は揃って史上最高値を更新しました。旅行・航空などコロナ禍で打撃を受けていた銘柄が軒並み急騰し、ハイテク株など巣ごもり関連は相対的に出遅れるという大きな資金循環(ローテーション)が起きました。短期的にはワクチン期待が相場を一気に強気に転換させ、中期的にも経済正常化への展望が開けたことで2021年に向け株式市場は追い風を得ました。

2021年1月

新政権への期待と一時的混乱 – トランプ政権の最後の数週間も波乱がありました。1月6日には米議会議事堂が暴徒化した群衆に襲撃される衝撃的な事件が発生しましたが、株式市場はこれを意外なほど無風に受け流しました。むしろ前日の1月5日に実施されたジョージア州上院決選投票で与党民主党が勝利し、上下両院を押さえる形となったため、大型財政出動への期待が高まりました。景気循環株が買われ、1月7日にはS&P500指数が過去最高値を更新しています。結局、トランプ政権期最後の日となる1月20日時点で、S&P500と日経平均はいずれもコロナ禍からの大幅な回復を遂げ、高値圏で推移していました。これは短期的な政治リスクをものともせず、次期バイデン政権の経済対策による中期的な成長期待がマーケットを支配していたことを示しています。