米国の相互関税措置、日本の農林水産物輸出に影響
米国の相互関税措置、日本の農林水産物輸出に影響
2025年4月、農林水産省は「米国の相互関税の輸出への影響・政府の対応について」と題する報告書を発表しました。この報告書は、最近の米国による相互関税措置が日本の農林水産物・食品輸出にどのような影響を与えるか、また日本政府がどのような対応策を講じているかを詳細に分析しています。
日米間の農林水産物貿易の現状
報告書によると、2024年の日本の農林水産物・食品の輸出額のうち、米国向けは全体の約17%(2,429億円)を占めています。特に米国向け輸出シェアが高い品目には、ぶり(55%)、緑茶(44%)、練り製品(37%)などがあります。
日本の米国向け農林水産物・食品輸出品目(2024年)
順位 | 品目 | 対米国・輸出額(億円) | 対世界・輸出額(億円) | 米国のシェア |
1 | アルコール飲料 | 265 | 1,337 | 20% |
2 | ぶり | 229 | 414 | 55% |
3 | ホタテ貝(生鮮等) | 191 | 695 | 27% |
4 | 緑茶 | 161 | 364 | 44% |
5 | ソース混合調味料 | 142 | 630 | 23% |
6 | 牛肉 | 135 | 648 | 21% |
7 | 清涼飲料水 | 94 | 574 | 16% |
8 | ごま油 | 82 | 120 | 68% |
9 | 菓子(米菓を除く) | 66 | 344 | 19% |
10 | 練り製品 | 42 | 113 | 37% |
14 | 米 | 25 | 120 | 21% |
一方で、日本は米国から多くの農林水産物を輸入しており、2024年の輸入額は2兆2,306億円に達し、約1兆9,877億円の貿易赤字となっています。
=====
米国は日本にとって最大の農産物輸入相手国であり、とうもろこし(輸入シェア77.0%)、大豆(65.2%)などの主要品目で高いシェアを持っています。
日本の米国からの主要農産物輸入
日本の農産物の輸入に占める米国のシェア(2024年)
品目 | 輸入額(億円) | 米国シェア | 主要輸入国 |
とうもろこし | 5,962 | 77.0% | 1位:米国、2位:ブラジル(20.2%) |
大豆 | 2,876 | 65.2% | 1位:米国、2位:ブラジル(18.6%)、3位:カナダ(15.2%) |
小麦 | 2,566 | 39.4% | 1位:カナダ(38.5%)、2位:米国、3位:豪州(21.8%) |
牛肉 | 4,751 | 37.9% | 1位:豪州(44.9%)、2位:米国、3位:NZ(6.6%) |
豚肉 | 6,457 | 23.0% | 1位:カナダ(24.8%)、2位:米国、3位:スペイン(17.2%) |
また、米国から日本への具体的な輸入額として、牛肉は1,802億円、コメは511億円に達しています。これらの数字は、日本の食料安全保障における米国への依存度の高さを示しています。
日米間の貿易収支
日米間の貿易収支(2024年)
区分 | 輸出(日本→米国)(億円) | 輸入(米国→日本)(億円) | 収支(億円) |
総計 | 212,952 | 126,535 | +86,417 |
農林水産物 | 2,429 | 22,306 | -19,877 |
牛肉 | 135 | 1,802 | -1,667 |
コメ | 25 | 511 | -486 |
相互関税措置の影響
米国政府は4月2日(米国時間)に相互関税の適用を発表し、4月9日に全面的に発動しました。日本産品に対する相互関税率は24%と設定されました。同時に米国政府は、一部の相互関税(10%を除く「上乗せ」税率)について、適用を90日間一時停止することも発表しています。
主要日本産品に対する相互関税率と輸出量(2024年)
品目 | 米国輸入量 | 相互関税率 | 日本の輸出シェア |
コメ | 総量:142万トン<br>日本から:0.9万トン | 24% | 米国輸入11位 |
牛肉 | 総量:167万トン<br>日本から:0.14万トン | 24%<br>(枠外は+26.4%) | 米国輸入11位 |
ホタテ | 総量:25.6千トン<br>日本から:9.2千トン | 24% | 米国輸入1位 |
主要国の相互関税率比較
国 | 品目での位置づけ | 相互関税率 | 輸入量 |
タイ | コメ輸入1位 | 36% | 80万トン |
インド | コメ輸入2位 | 26% | 31万トン |
中国 | コメ輸入3位 | 34% | 8.6万トン |
日本 | コメ輸入11位 | 24% | 0.9万トン |
特にホタテについては日本が米国市場で主要供給国となっており、関税の影響が懸念されます。一方、主要コメ輸出国と比較すると、タイ(36%)、中国(34%)、インド(26%)と比べて、日本に対する関税率(24%)はやや低い水準に設定されています。
日米貿易の重要性
米国の農産物輸出額(2024年)
品目 | 輸出額(億ドル) | 日本への輸出額(億ドル) | 日本の順位(シェア) | その他の主要輸出先国 |
とうもろこし | 139 | 28 | 2位(20%) | 1位:メキシコ(40%)、3位:コロンビア(11%) |
大豆 | 245 | 10 | 6位(4%) | 1位:中国(52%)、2位:メキシコ(9%) |
小麦 | 59 | 5.8 | 3位(10%) | 1位:メキシコ(18%)、2位:フィリピン(12%) |
牛肉・牛肉製品 | 105 | 19 | 2位(18%) | 1位:韓国(21%)、3位:中国(15%) |
豚肉・豚肉製品 | 86 | 14 | 2位(16%) | 1位:メキシコ(30%)、3位:中国(13%) |
米国にとっても日本は重要な農産物輸出先であり、牛肉・牛肉製品(米国の輸出額の18%、2位)、豚肉・豚肉製品(16%、2位)、小麦(10%、3位)などの主要輸出先となっています。
全体の貿易状況を見ると、日本は米国に対して8兆6千億円の貿易黒字を計上していますが、農林水産物に限れば1兆9,877億円の貿易赤字となっている点が特徴的です。この貿易不均衡は、今回の相互関税問題の背景に関わる重要な要素といえるでしょう。
今後の展望
今回の相互関税措置は日本の農林水産物輸出、特にホタテや緑茶、ぶりなど米国市場への依存度が高い品目に影響を与える可能性があります。一方で、日本の対米農林水産物貿易は大幅な赤字であり、米国も日本を重要な輸出先としているため、両国が協議を通じて問題解決に向けた取り組みを進めることが期待されます。