預貸率・預証率から見る銀行分析の本質
預貸率・預証率から見る銀行分析の本質
預貸率・預証率とは何か
銀行分析において最も基本となる2つの指標について解説します。
指標名 | 算式 | 意味 |
預貸率<br>(Loan-to-Deposit Ratio, LDR) | 貸出金 ÷ 預金 | 預金という低コストの資金をどれだけ貸出へ振り向けているかを示す。本業の収益力と流動性リスクを同時に測定できる指標。 |
預証率<br>(Securities-to-Deposit Ratio, SDR) | 有価証券残高 ÷ 預金 | 預金で調達した資金のうち、市場性証券(国債・社債・株式など)での運用割合を示す。低金利下で拡大しやすく、含み損益や金利リスクの温床になり得る。 |
上場銀行分析で両指標が不可欠な5つの理由
1. 本業収益力の一次スクリーニング
銀行収益は「貸出利ザヤ+証券運用利回り」で構成されています。預貸率が低すぎれば預金を遊休させており効率が悪く、一方で預証率が高すぎれば市場運用依存が強く、金利や価格変動で収益が振れやすくなります。両者を併せて見ることで、貸出偏重型・運用偏重型を一目で識別できます。
2. 流動性リスク判定の基準値
一般に**LDR 80–90%が"適温"**とされ、100%超は流動性逼迫リスクを示唆します。同様に SDR が高まると有価証券売却でしか資金化できず、市場ストレス局面での調達コスト急騰が懸念されます。
3. 金利環境シナリオ分析への直結
シナリオ | LDR高 | SDR高 |
利上げ局面 | 貸出金利再設定でメリット先行 | 保有国債の含み損拡大で自己資本毀損リスク |
利下げ・日銀緩和継続局面 | 利ザヤ縮小でマイナス影響 | 債券含み益でバッファー |
4. 自己資本規制・ストレステスト評価に反映
国際統一基準行はLCR(流動性カバレッジ比率)を月次報告。LDR・SDRを改善しておくと高品質流動資産(HQLA)比率が維持しやすい。よって資本規制対応コストの先読みに不可欠です。
5. 市場評価(株価バリュエーション)への波及
実証研究では、適正範囲のLDRはROA/ROEと正の相関を示す一方、極端な高低は評価ディスカウント要因となります。SDRが膨張する局面では投資家が含み損計上リスクを織り込み、P/Bレシオが伸び悩むケースが多いことが知られています。
実務的な分析ステップ
ステップ | 着眼点 | チェックリスト |
1. 水準把握 | LDR・SDRを四半期推移で取得 | 80–90%帯か/業態平均比 |
2. トレンド分析 | 前期比・前年同期比 | 預金増減ペース vs 貸出・証券増減 |
3. ストレス感応度 | 金利+100 bpシナリオ | 債券含み損、NIM感応度 |
4. 資本余力 | LDR・SDR変動後のCET1比率 | バッファー>規制+経営目標? |
5. 株価への翻訳 | ROE・P/B・配当性向 | 指標改善余地=株価アップサイド |
まとめ ― 両指標を押さえると見える"銀行の素顔"
預貸率は貸出で稼ぐ力 × 流動性余力のバランスを、預証率は市場運用依存度 × 金利リスクの濃淡を、それぞれ一数値で映し出します。両者を組み合わせることで、以下の要素を多面的に評価できます:
上場銀行銘柄のファンダメンタルズを読み解く入口として、LDR・SDRは**「まず見る指標」**として位置づけるべきでしょう。
PERAGARU銀行バランスシートデータでは下記のように預貸率・預証率を地銀全銘柄に集計したデータを提供しています。ぜひご確認ください。
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