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ROAとROICの違いをわかりやすく解説

公開日:2025年05月10日
Note

はじめに

企業の収益性や効率性を評価する上で、ROA(総資産利益率)とROIC(投下資本利益率)は重要な指標です。どちらも企業がどれだけ効率的に資本を活用して利益を生み出しているかを示しますが、その計算方法や意味合いには重要な違いがあります。この記事では、仮想企業A社のデータを例に、これらの指標の違いをわかりやすく解説します。

仮想企業A社の財務データ

まずは、分析に使用するA社の財務データを確認しましょう。

項目金額(億円)
売上高1,000
営業利益100
税率(法人税等)30%
当期純利益70
総資産(Total Assets)2,000
有利子負債500
現金等(非事業資産)200
株主資本(自己資本)1,300

ROA(総資産利益率)とは

ROA(Return on Assets)は、企業が保有するすべての資産をどれだけ効率的に活用して利益を生み出しているかを示す指標です。

ROAの計算式

A社のROA計算例

ROAの解釈

A社の場合、総資産に対して3.5%の利益を生み出しています。つまり、保有している資産100円あたり3.5円の利益を生み出していることになります。この指標は会社が所有するすべての資産(現金や投資など含む)をどれだけ効率的に活用しているかを示しています。

ROIC(投下資本利益率)とは

ROIC(Return on Invested Capital)は、事業に実際に投下されている資本に対する収益性を測定します。ROAと異なり、事業に直接関係ない資産(余剰現金など)を除外するため、より純粋な事業効率を評価できます。

ROICの計算ステップ

ステップ1: 税引後営業利益(NOPAT)を求める

NOPAT(Net Operating Profit After Tax)は、税引後の営業利益を表します。

A社の場合:

ステップ2: 投下資本を求める

投下資本は、事業に実際に使われている資本の額です。

A社の場合:

ステップ3: ROICを計算する

A社の場合:

ROICの解釈

A社は事業に実際に使用している資本に対して約3.89%の利益を生み出しています。これは、事業活動に直接投入されている資本がどれだけ効率的に利益を生み出しているかを示しています。

ROAとROICの違い:比較表

指標計算式A社の結果意味特徴
ROA当期純利益 ÷ 総資産3.5%企業全体の資産を使ってどれだけ利益を生んだかすべての資産(現金含む)を評価対象とする
ROICNOPAT ÷ 投下資本3.89%事業に使っているお金に対してどれだけ効率的に稼いだか事業に直接関係する資本のみを評価対象とする

ROAとROICの主要な違い

  • 計算に使う利益の違い
  • ROA:当期純利益(金融費用・税金控除後)
  • ROIC:税引後営業利益(NOPAT)(金融費用の影響を排除)
  • 分母となる資本の違い
  • ROA:総資産(すべての資産)
  • ROIC:投下資本(事業に使われている資本のみ)
  • 目的の違い
  • ROA:企業全体の資産効率を評価
  • ROIC:純粋な事業効率を評価
  • 重要ポイント

  • ROICの方が高くなるのは一般的:これは余剰資産(例:現金)を除いた「事業で本当に使っているお金」に対して利益を出しているためです。
  • ROAは会社全体の効率性を示す指標:現金や遊休資産も含めた全ての資産がどれだけ効率的に利益を生み出しているかを評価します。
  • ROICは経営判断の質を評価する指標:限られた事業資本でどれだけ高いリターンを上げたかがわかり、経営者の資本配分の効率性を測ることができます。
  • 資本コストとの比較が重要:ROICが資本コスト(資金調達コスト)を上回っているかどうかで、企業が実質的な価値を創造しているかを判断できます。
  • どちらの指標を使うべきか?

    両指標にはそれぞれ長所があり、分析目的によって使い分けることが重要です。

  • ROA:企業全体の効率性を大まかに把握したい場合や、異なる業種間の比較に適しています。
  • ROIC:より純粋な事業効率を評価したい場合や、経営判断の質を分析したい場合に適しています。
  • 実務では、単一の指標だけでなく複数の指標を組み合わせて総合的に分析することが重要です。また、同業他社との比較や、時系列での変化を追うことで、より有意義な分析が可能になります。