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証券口座の不正ログインのリスクと対応策

公開日:2025年05月15日
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証券口座の不正ログインのリスクと対応策

証券会社のオンライン口座(証券口座)に第三者が不正にログインする事件が近年増加しています。金融庁の発表によると、2025年には数千件規模の不正アクセスと不正取引が報告されており、わずか数か月で被害が急増しています。一般の投資家にとっても他人事ではなく、自分の資産や個人情報が狙われるリスクがあります。本記事では、証券口座が不正ログインされる主な原因と手口、その被害例、そして被害を防ぐための具体的な対策と万一被害に遭った場合の対応策について解説します。専門用語についてはカッコ書きで簡単に説明しながら、できるだけわかりやすく説明します。

証券口座が不正ログインされる主な原因

不正ログインの多くは、ユーザーのログイン情報(IDやパスワード)の漏えいによって起こります。攻撃者は様々な手段でログインID・パスワードを入手し、被害者になりすまして証券口座にアクセスします。主な手口として以下が挙げられます。

フィッシング詐欺(※偽サイトを使った詐欺)

攻撃者が証券会社になりすました偽のログインページや偽アプリに誘導し、ユーザーが入力したIDやパスワードを盗み取る手口です。一見本物と見分けがつかない巧妙な偽サイトが作られ、ユーザーが誤ってログイン情報を入力すると、その情報がそのまま攻撃者に送信されてしまいます。フィッシングでは利用者自身が情報を提供してしまうため、防ぐにはメールやSMS内のリンクを不用意にクリックしない、URLが正規サイトか確認する、といった利用者側の注意が重要になります。

パスワードリスト攻撃(リスト型攻撃)

これは過去に流出したID・パスワードのリストを使い回してログインを試行する攻撃手法です。例えば他のサービスから漏えいしたメールアドレスやパスワードが、そのまま証券会社のログインでも使われていると、攻撃者はそれを合い鍵のように悪用できます。実際に近年の攻撃では、フィッシングやこのリスト型攻撃によってログイン情報を盗み出し、不正ログインに利用するケースが多発しています。パスワードの使い回しをしていると被害に遭いやすくなるため、後述する対策のように強固で唯一のパスワードを設定することが重要です。

マルウェア感染(※不正なソフトによるウイルス感染)

ユーザーのPCやスマートフォンが**マルウェア(ウイルスやスパイウェア)に感染し、キーロガー(キー入力記録ソフト)等によってID・パスワードが盗まれる手口です。マルウェアの多くは、正規のソフトに偽装された不正プログラムや、メールの添付ファイル・リンク経由でユーザーの端末に侵入します。感染すると入力情報の記録・送信や、端末内の特定ファイル(ブラウザに保存されたパスワードやCookieなど)の窃取が行われ、結果的に証券口座の認証情報が抜き取られてしまいます。最近の被害急増の背景には、このような情報窃取型マルウェア(Infostealer)**の暗躍も指摘されています。

これらの手口以外にも、推測しやすい簡単なパスワード(「123456」や生年月日など)を設定している場合に総当たり攻撃で突破される危険や、他人にパスワードを知られてしまうケースもあります。しかし現在多く報告されている不正ログインは、上記のフィッシング詐欺、パスワードの使い回し(リスト攻撃)、マルウェア感染による情報漏えいが主要な原因となっています。

セッションハイジャックのリスクと仕組み

上記のようにログイン情報を直接盗まれなくても、「セッションハイジャック」と呼ばれる手口でログイン状態を乗っ取られる危険もあります。セッションハイジャックとは、ユーザーがウェブサイトにログインしてやり取りをしている通信セッションを乗っ取る攻撃のことです。具体的には、ウェブサービスはログイン後にユーザーを識別するため「セッショントークン」(セッションIDという識別子)を発行し、Cookie(クッキー)などに保存しています。このトークンが盗まれると、攻撃者はそのユーザーになりすましてサービスにアクセスできてしまいます。

セッショントークンの盗難

攻撃者は何らかの方法でユーザーのCookie内にあるセッションIDを盗み取ります。例えばユーザーのPCがマルウェアに感染すると、CookieファイルからセッションIDを抜き出し、攻撃者が自分の端末にそのIDをセットすることでログイン状態を再現できます。こうして正規のログインID・パスワードを知らなくても、盗んだセッションIDだけで不正アクセスすることが可能になります。多くのウェブサービスでは一定時間操作がないとセッションが無効になりますが、ユーザーが「ログイン状態を保持する」設定を有効にしていたりすれば、長時間そのセッションIDが使われ続けてしまうため特に危険です。

共有Wi-Fi環境での中間者攻撃

公共のフリーWi-Fiなど信頼性の低いネットワークを利用した際に、通信を盗聴・改ざんされる恐れがあります。攻撃者が同じWi-Fi上でパケットを盗み見る(パケットスニッフィング)ことで、セッションIDなどの情報を抜き取る可能性があります。現在はほとんどの証券会社サイトがHTTPS通信で暗号化されていますが、悪意あるWi-Fiアクセスポイント(偽のホットスポット)に誘導されて通信を仲介されてしまうと、利用者は気付かないうちに中間者(攻撃者)に情報を盗まれてしまう危険があります。これを**中間者攻撃(MITM攻撃)**といい、巧妙な手口ですがフリーWi-Fiでは特に注意が必要です。

セッションハイジャックは一般的なフィッシング等より難易度が高い攻撃とされていますが、対策を講じていない環境では発生し得るリスクです。自宅や社内など信頼できるネットワーク以外では証券口座にログインしない、どうしても公共Wi-Fiを使う場合はVPN(仮想プライベートネットワーク)で通信を暗号化する、端末はマルウェア対策ソフトで保護する、といった対策でセッションハイジャックの危険性を下げることができます(具体的な対策は後述します)。

不正ログインによる被害例

証券口座が乗っ取られると、被害者の資産や情報が不正に利用され、大きな損害を被る可能性があります。実際に報告されている主な被害内容は次の通りです。

不正売買による資産の損失

攻撃者はログインした証券口座で勝手に売買を行うことがあります。例えば、被害者の保有株式を全て売却し、その資金で特定の銘柄(例:低価格の海外株など)を大量に購入するといった手口です。これは攻撃者が狙った株価を人為的に変動させて利益を得る目的だと考えられます。被害者の口座には見覚えのない安値の株だけが残り、本来の資産価値が失われてしまいます。このように口座内の資産を間接的に奪う新たな被害形態が近年注目されています。被害に気づいて証券会社に問い合わせたときには、すでに損失が発生しているため非常に厄介です。

資金流出(現金の引き出し)

証券口座から現金を直接引き出されるケースもあります。証券会社によっては、口座から登録済みの銀行口座へ出金(振り込み)できる仕組みがあります。攻撃者がログイン後に被害者になりすまして出金手続きを行い、資金を自分たちの口座に移してしまうのです。近年報告された事例では、不正ログインした犯人が被害者の資産を銀行口座に移し替えて逃走する典型的なネットバンキング犯罪も依然ありますが、証券口座ではそれにとどまらず前述の不正売買と組み合わせた手口が確認されています。いずれにせよ、口座のお金を直接奪われる被害は深刻です。

個人情報の漏えい

証券口座には氏名、住所、連絡先、マイナンバー(個人番号)や銀行口座情報など、重要な個人情報が含まれています。攻撃者が不正ログインすると、こうした個人情報を閲覧・取得される恐れがあります。盗まれた個人情報は闇市場で売買されたり、他の詐欺(なりすまし口座開設や金融犯罪)に悪用される危険があります。実際に、過去には顧客情報をもとに偽造書類を作り架空口座を開設された事件も報じられています。証券口座の不正利用は資産被害だけでなくプライバシー侵害や二次被害にもつながりかねません。

これら以外にも、攻撃者が証券口座を利用して信用取引を行い損失を押し付ける、登録メールアドレスを変更して通知を遮断する、といった悪質な例も考えられます。被害に遭うと経済的損失だけでなく、精神的な不安や対処の手間も大きな負担となります。次章では、こうした不正ログイン被害を未然に防ぐために投資家が取るべき具体的な対策を解説します。

一般投資家が取るべき具体的な予防策

証券会社側でもセキュリティ強化(多要素認証の導入やバックアップサイト廃止など)を進めていますが、利用者自身も対策を講じることが大切です。ここでは一般の投資家ができる具体的な予防策を紹介します。できるものからすぐに実践しましょう。

二段階認証(2要素認証)の有効化

証券会社の提供する二段階認証(2要素認証)を必ず設定しましょう。二段階認証とは、通常のID・パスワードに加えてもう一つの要素(ワンタイムパスワードや画像認証など)で確認を行う仕組みです。ログイン時に登録したスマートフォンにSMSや専用アプリで届く一回限りのコードを入力したり、指定された画像を選ぶ方法などがあります。これにより、万一パスワードが漏れても第二の認証要素がなければログインできないため不正アクセスのリスクを大幅に下げられます。実際、2段階認証や事前登録デバイスによる認証を設定していれば、ログイン情報がフィッシングで盗まれてもスマホ等が盗まれない限りほとんどなりすましログインを防げます。各証券会社で設定方法が案内されていますので有効にしてください。

強固で使い回ししないパスワードの設定・管理

パスワードはできるだけ長く複雑なものを設定し、他のサービスと使い回さないようにします。具体的には、数字・大小英字・記号を組み合わせてランダムに近い文字列にし、各社のパスワード仕様に応じた十分な長さにしてください。逆に名前や誕生日、電話番号、連番「123456」や単語「password」など推測されやすい文字列は避けるべきです。また証券口座やネット銀行など金融系の口座ごとに異なるパスワードを設定し、決して使い回ししないでください。過去に流出したパスワードを使い回しているとリスト攻撃で突破される危険が高まります。パスワードの管理にも注意が必要で、メモを書いた紙を他人が見える場所に置かないことはもちろん、PCやスマホのメモ帳やクラウドに平文(暗号化なし)のまま保存しないようにしましょう。安全なパスワード管理ソフト(パスワードマネージャー)を利用し、マスターパスワードで保護して管理するのがおすすめです。

信頼できる環境からのみログインする

証券口座へのログインや取引は、できるだけ自宅など信頼できるネットワーク環境で行いましょう。インターネットカフェやホテルの共用PCなど不特定多数が利用する端末でのログインは避けてください。そのような端末にはキーロガー等が仕込まれている可能性もあります。また、カフェや駅の無料Wi-Fiなど公共のフリーWi-Fiは通信の盗聴リスクがあります。セキュリティ設定が甘いWi-Fiでは、第三者に通信を傍受されログイン情報を盗み見られる恐れがあります。どうしても外出先で取引が必要な場合は、スマホのテザリングや信頼できるモバイル回線を使うか、VPNサービスを利用して通信を暗号化するようにしてください。ネットワーク環境ひとつで安全性は大きく変わるので注意しましょう。

セキュリティソフトの導入と端末のアップデート

パソコンやスマートフォンには必ず**ウイルス対策ソフト(セキュリティソフト)**を導入し、常に最新版にアップデートしておきます。セキュリティソフトやOSは日々更新されるため、更新通知があればすぐ適用して最新の状態に保つことが重要です。あわせて、利用ブラウザや証券会社の公式アプリも最新バージョンに更新しておきましょう。これにより既知の脆弱性を突いたマルウェア感染や不正アクセスを防ぎやすくなります。またOSやソフトウェアの公式サポートが終了した古い端末での取引は避け、なるべくセキュリティサポートのある環境で利用してください。

ログイン通知や履歴確認の活用

証券会社の中には、ログインや出金が行われた際にメールで通知してくれるサービスを提供しているところがあります。こうしたログイン通知機能を有効にしておくと、自分のログイン実行時刻・場所を把握でき、万一見に覚えのないログインがあればすぐ気付くことができます。同様に、口座から出金があった場合の通知も設定しておくと安心です。加えて、証券会社のサイト上でログイン履歴や取引履歴を定期的に確認する習慣をつけましょう。ログイン履歴には過去のログイン日時やIPアドレスが記録されていますので、不審なアクセスがないかチェックできます。早期発見できれば被害を最小限に抑えられる可能性が高まります。

以上の対策を組み合わせることで、不正ログインのリスクを大幅に低減できます。特にパスワード管理と二段階認証の利用は基本かつ強力な防御策です。証券会社側でも2025年以降、多要素認証の必須化やログイン方法の見直しを進めていますが、利用者自身も「自分の資産は自分で守る」という意識でセキュリティ設定を確認・実践しましょう。

万が一不正アクセスが発覚した場合の対応手順

万全の対策を施していても、「完全に安全」は断言できず、不正アクセス被害に遭ってしまう可能性はゼロではありません。万が一、自分の証券口座で不審なログインや取引に気付いた場合、迅速かつ適切に対応することで被害拡大を防ぎ、後の補償や捜査もスムーズになります。一般投資家が取るべき不正アクセス発覚時の対応手順をまとめます。

証券会社に即時連絡し口座凍結などを依頼する

身に覚えのないログイン通知や取引履歴を発見したら、まず利用している証券会社のサポート窓口に急いで連絡してください。多くの証券会社は24時間対応のフリーダイヤルや緊急連絡先を設けています。不正アクセスの疑いを伝え、**口座の一時ロック(凍結)**やパスワードリセットの手続きを依頼しましょう。証券会社側で不正取引の差し止めや出金停止など緊急対応を取ってもらえる場合があります。連絡が遅れると被害が拡大する恐れがありますので、一刻も早く連絡することが肝心です。

パスワードの変更および関連サービスの確認

証券会社への連絡後、速やかにパスワードを変更しましょう。不正ログインされたということは現在のパスワードが漏洩している可能性が高いため、新しい強力なパスワードに更新します。二段階認証をまだ設定していなかった場合は、この機会に必ず有効化してください。また、もし同じパスワードを他のサービスで使い回していた場合(本来は避けるべきですが)、そのサービスのパスワードも直ちに変更する必要があります。攻撃者は一度入手した認証情報を使って他のサイトにもログインを試みるため、被害の二次拡大を防ぐためにも徹底したパスワード変更が重要です。

ログイン履歴や取引履歴の確認・記録

自分の証券口座のログイン履歴や取引履歴を詳細に確認し、不正アクセスの痕跡を調べます。不正ログインが行われた日時やIPアドレス、行われた売買の内容、出金の有無などを確認してください。これらの情報は後ほど証券会社や警察への説明にも役立つため、スクリーンショットやメモに記録しておきましょう。証券会社側でも調査を行いますが、自分でも把握しておくことで対応漏れを防げます。特に出金履歴に見知らぬ振込先や金額がないか、口座残高や保有株式数に大きな変動がないかをチェックしてください。

警察への通報・相談

金銭的な被害や個人情報漏えいの可能性がある場合、警察(サイバー犯罪相談窓口など)に速やかに通報してください。証券会社への連絡だけでなく、公的機関に被害届を提出することで、正式な捜査が行われ犯人追跡や被害拡大防止につながります。警察に状況を説明する際は、先ほど確認した不正アクセスの日時や手口、被害状況(不正に売買された銘柄や金額、流出した資金額など)をできるだけ詳しく伝えます。証券会社から発行された取引報告書やログイン履歴の記録があれば提出しましょう。また最寄りの警察署だけでなく、都道府県警のサイバー犯罪相談窓口や消費生活センターなどに相談するとアドバイスが得られる場合もあります。

証券会社の指示に従いアカウントを再設定

不正アクセス後は証券会社のセキュリティ担当部署による調査が行われ、多くの場合、被害者には今後の手続きや補償についての案内があります。指示に従って本人確認書類の提出や、新しいID発行など必要な対応を進めてください。2025年には業界として一定の被害補償を行う方針も発表されており、状況によっては損失分が補填されるケースもあります。証券会社とのやり取りの中で再発防止策(例えば端末認証の設定やパスワード定期変更など)が提案されることもありますので、今後の安全のために積極的に取り組みましょう。

以上が基本的な対応手順です。被害に遭うと焦ってしまいがちですが、**「連絡・遮断」「証拠保全」「公的機関への報告」**を順序立てて行うことが大切です。不正アクセスに気付いた段階で迅速に行動すれば、被害拡大の防止や資産の取り戻しにつながる可能性も高まります。

まとめ

証券口座の不正ログインは誰にでも起こり得るリスクであり、一度被害に遭うと資産流出や信用の低下など深刻な結果を招きます。しかし、事前にセキュリティ意識を高め適切な対策を講じておくことで、被害を防止・低減することが可能です。フィッシング詐欺に警戒し、強力なパスワードと二段階認証で鉄壁の守りを固め、怪しいアクセスにすぐ気付けるよう監視と備えをしておくことが何より重要です。また、万一被害に遭ってしまった場合も、冷静かつ迅速に対処することで被害回復の道が開けます。大切な資産を守るため、今日からできる対策を実践していきましょう。