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イネカメムシ被害と米価への影響分析レポート

公開日:2025年05月19日
Note

〜2000年以降の発生事例と市場インパクト〜

はじめに

1970年代後半以降、約40年間姿を消していたイネカメムシが2010年代後半から再び日本各地で発生し、水稲生産と米市場に深刻な影響を与えています。本レポートでは、2000年以降の主要な発生事例を時系列で整理し、被害規模や米価への影響を詳細に分析します。

発生事例の時系列分析

2010年代後半:イネカメムシの再出現(2018-2020年)

地球温暖化による越冬個体の増加を背景に、約40年ぶりにイネカメムシが各地で確認され始めました。

発生状況

  • 発生地域: 九州・中国地方(特に山口県、鹿児島県)
  • 被害規模: 限定的だが、水稲の出穂期に籾の基部を吸汁し不稔籾を発生
  • 市場影響: 全国的な米価への明確な影響なし(米余り傾向で市場価格は安定)
  • 行政対応: 農林水産省・各県が病害虫発生予察情報で注意喚起開始
  • 2022年:全国的多発傾向の確立

    イネカメムシの発生が全国規模に拡大し、供給懸念が台頭した転換点の年でした。

    発生状況

  • 発生地域: 35都道府県で注意報発令、37都府県で発生確認
  • 被害規模: 過去10年で最大の発生量、埼玉県では前年比43倍の越冬密度
  • 市場影響: 直接的な価格高騰はないが、等級ダウンにより良質米の流通量減少
  • 行政対応: 病害虫発生予報39件発令(過去10年最多)、防除指導強化
  • 2023年:災害級大発生と「令和の米騒動」

    イネカメムシ被害と記録的猛暑が重なり、戦後最大級の米価高騰を引き起こしました。

    発生状況

  • 発生地域: 東日本から西日本まで広範囲、37都府県で生息確認
  • 被害規模: 埼玉県加須市で平年比80%減収、鳥取県南部町で収穫量3分の1まで減少
  • 市場影響: 2024年春に米価が前年同期比2倍(5kg:4,214円)に急騰
  • 行政対応: 備蓄米緊急放出、官民合同防除会議設立、被害農家への緊急支援
  • 年別被害・影響比較表

    年代発生地域数主要被害地域収量への影響米価への影響政府対応レベル
    2018-2020数県程度九州・中国地方限定的なし注意喚起開始
    202235都道府県関東甲信・北陸・西日本中程度軽微(品薄感)注意報39件発令
    202337都府県関東北部・鳥取・九州南部甚大(最大80%減)深刻(2倍高騰)緊急対策実施

    地域別被害詳細

    埼玉県

  • 2022年: 前年比43倍の越冬密度を記録、全県で発生確認
  • 2023年: 加須市で平年比80%減収事例、南部から北部まで全域で深刻被害
  • 鳥取県

  • 2021年: 南部町で初発生確認
  • 2023年: 南部町で爆発的増殖、作付3ヘクタールがほぼ全滅、収穫量が前年の3分の1
  • 鹿児島県

  • 2018年: 多数捕獲され注意喚起開始
  • 2023年: 中生から晩生品種まで広範囲で食害、品種によっては8-9割減収
  • 米価への影響分析

    価格推移と影響発現時期

    市場への波及メカニズム

  • 発生期(夏季):被害農家で収量・品質低下
  • 収穫期(秋季):市場流通量の減少が明確化
  • 流通期(年末〜翌春):在庫不足による価格急騰
  • 持続期(翌年通年):高値の長期間維持
  • 投資・経営判断への示唆

    早期警戒指標

    指標監視ポイント投資への活用
    病害虫注意報発令数前年比増加率、主要産地の発令状況食品関連銘柄の先行投資判断
    越冬密度調査結果前年比倍率、発生予測密度作況悪化リスクの早期察知
    気象要因高温・干ばつとの複合リスク被害拡大可能性の評価

    リスク管理のポイント

  • 複合要因の監視: イネカメムシ単独ではなく、気象災害との重複リスクを常に考慮
  • 政策対応の分析: 備蓄米放出や補助金政策の効果とタイムラグを理解
  • 地域別影響差: 主要産地の被害状況と全国への波及経路を把握
  • 今後の展望と対策

    予防・防除体制の強化

  • 広域一斉防除: 官民合同協議会による連携強化
  • 技術革新: ICT活用による発生予測精度向上
  • 農家教育: 適期防除(出穂直後)の徹底指導
  • 市場安定化策

  • 備蓄米の柔軟運用: 早期放出による価格安定化
  • 産地多様化: リスク分散による安定供給体制構築
  • 品種改良: 抵抗性品種の開発・普及

  • 本レポートは2000年以降の公開情報をもとに作成しており、今後の発生動向や市場への影響については継続的な監視が必要です。