9252 ラストワンマイル 初回レポート
証券コード9252 ラストワンマイルについて、今期及び来期にわたる業績予想について紹介する。同社は2012年6月に株式会社Bestエフォートとして設立され、2018年に日本総合情報通信株式会社を吸収合併し、株式会社ラストワンマイルに商号を変更、「ラストワンマイル事業」を開始した。2021年11月には東証グロース市場に上場している。
同社グループは、「アライアンス事業」、「集合住宅向け無料インターネット事業」、「コンタクトセンター事業」、「ホテル運営受託事業」、「リスティング・メディア事業」の5つを主力事業として展開しており、各事業においてストック型とフロー型の収益モデルを組み合わせることで安定的な成長を目指している。
各事業の詳細は以下のとおりである。
アライアンス事業は、不動産管理会社やその他顧客を保有する企業といった提携先から見込顧客の紹介を受け、電気、ガス、ウォーターサーバー(WTS)、インターネット、会員サービス、IoTマンション等の自社サービス及びサービス提供事業者の各種サービスを提案・販売する事業である。提携先から見込顧客の紹介を受け、顧客は当社またはサービス提供事業者と契約し、その利用料や販売手数料が収益となる。今後は不動産・引越し・管理会社だけでなく、見込顧客を持つ異業種の企業とも提携することで新たなマーケットの開拓を進め、成長していく計画である。
集合住宅向け無料インターネット事業は、マンションやアパート等の集合住宅に、マンション等所有者負担でインターネット設備を設置し、入居者が無料で使用できるサービスを提供する事業である。収益は、マンション等所有者からの毎月の利用料や初期工事費用から得る。
コンタクトセンター事業は、官公庁、不動産管理会社、飲食店等からの委託により、顧客対応業務を行う事業である。委託元のサービスを利用する顧客からの各種受付・問合せに対応するコンタクトセンターを運営している。現在、24時間365日対応を実現しており、同業他社から自社で対応しきれない業務部分の受注を獲得している。注目すべき点として、DX・AI化の推進により人件費を削減しながら収益の拡大を図っていることやアライアンス事業とのシナジー、多くの会員を保有する企業との提携拡大によりシェア拡大を目指していることが挙げられる。
ホテル運営受託事業は、ホテルの物件所有者や事業オーナーからの委託により、宿泊客への宿泊サービスの提供、旅行サイトの管理、ホテルオペレーション業務、コンサルティングなどを受託する事業である。現在の状況として、集合住宅をホテルに転用するノウハウや、マンスリーマンション需要を取り込むノウハウと同時に、無人運営のノウハウを持っているため、人材不足が成長を阻害しない点も強みである。また2025年5月16日に、これまでの受託モデルに加え、物件を借上げて同社が事業オーナーとして直接運営を行う直営モデルの開始を決定しており、26年8月期からホテル事業のさらなる成長が見込まれる。
リスティング・メディア事業は、リスティング広告やLPを運用し、顧客からの直接流入を獲得、各種サービスを提案・販売する事業である。取り扱うサービスは電気、ガス、WTS、インターネット等であり、サービス提供事業者から販売委託を受け、顧客からの利用料や販売手数料を収益としている。
上記はラストワンマイルが開示しているデータを基に我々が独自に行った業績予想である。
今回の業績予想は、主力事業の拡大とM&Aによる規模拡大を軸とした成長戦略の推進を前提とするものである。特に、ストック型収益の積み上げと、シナジー効果の高いM&Aの実行が成長の鍵となる。
同社は、営業利益1億円以上を見込める事業への集中と同規模の利益貢献が期待できるM&Aを通じて、持続的な成長を目指している。この高い成長目標を達成するため、主力事業におけるDX・AI化推進による効率化、M&Aによる既存事業規模拡大と高収益事業の獲得、そして将来性のある新規事業領域への積極的な参入といった多角的な成長戦略を推進している。これらの取り組みが総合的に寄与し、従業員数は横ばいを維持しつつも、従業員一人当たりの売上高および営業利益は大幅に向上している。(上図参照)
M&A戦略に関しては、営業利益約1億円以上、投資回収期間5年以内を目安に事業シナジーのみならず企業文化や人的相性も重視して対象を選定する。直近では2022年7月から2024年9月にかけて自己株式の取得、株式交換を含め約25億円を投じ7社のM&Aを実行し、これが2024年8月期からの増収増益に大きく寄与している。25年8月期上半期においては、新規会社の増益寄与率が前年同期比約65.9%に達し、特に防犯カメラレンタル等を提供する株式会社SHCの貢献が大きい。
収益構造については、主に既存会社でフロー型収益を長期的な利益を獲得できるストック型収益に変更して販売するなど、フロー型収益から安定的なストック型収益への転換を進めている。これにより、短期的な利益の伸びは抑えられるものの、中長期的には収益基盤が強化され、来期以降の利益増加が見込まれる。インターネット回線事業(集合住宅向け無料インターネット事業を含む)やその他事業(ガス、会員サービス等)においても、既存事業の伸長とM&Aによる子会社の収益化が寄与し、特にその他事業は前年同期比約2.3倍と大幅な成長を遂げている。
以上の予想と会社予想、四季報予想、コンセンサスとの比較を以下に示す。
我々の予想では2025年8月期の予想は売上高、営業利益ともに会社予想、四季報を上回り強気な予想となった。
ストック売上の電気・WTSセグメントでは季節性が確認されるので考慮する必要がある。
同社の事業成長と企業価値向上の取り組みの一環として、当時代表取締役社長(現代表取締役会長 兼 CEO)の渡辺誠氏に付与された有償SOがある。2023年1月開催の取締役会において、渡辺氏を含む同社取締役等に対し、募集新株予約権を有償で発行することが決議された。渡辺氏には1,000個(総数1,200個中)が割り当てられ、交付を受けられる株式総数は120,000株である。発行価額は1個あたり13,500円、行使価額は771円とされた。特徴的なのは時価総額目標達成が行使条件とされている点で、具体的には割当日から2028年1月31日までの期間において時価総額100億円以上で42%、200億円以上で83%、300億円以上で100%が行使可能となる設計である。上場時(時価総額約21億円)から高い目標が条件として定められたが、2023年6月に時価総額100億円を達成した。さらに、渡辺氏は自己資金で10万株分の有償SO(1,350万円相当)を取得し、2023年8月期の役員報酬を辞退するなど、株価向上への強い意志を示している。
投資判断を下す際にはこのような点を踏まえた上で慎重に判断する必要があるだろう。