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備蓄米の随意契約がコメ卸業者の業績に与える影響

公開日:2025年05月27日
Note

備蓄米の随意契約がコメ卸業者の業績に与える影響

サマリー

備蓄米の随意契約は、コメ卸業者の業績に重大なマイナス影響を与える可能性が高い。価格競争力の低下、取引量の減少、利益率の圧迫が主要なリスクとなっている。


政策変更の概要

制度変更の背景

農林水産省は、備蓄米の放出手続きを随意契約に見直す方針を表明しており、従来の一般競争入札で高い価格を付けた業者から順に売り渡す現在の仕組みを見直し、備蓄米の価格を引き下げる狙いがある。

従来システムとの比較

  • 従来方式:国がJA全農など大手集荷業者に入札方式で販売した後、卸売業者を通じて、小売りや中・外食事業者に供給する形をとっていた
  • 新方式:国が価格を決める随意契約で、集荷業者や卸売業者を経由せず、小売業者に直接売り渡すため、価格に上乗せされる経費や利益を抑えられる
  • 価格設定の詳細

    3月以降の入札での平均落札価格は玄米60キロ当たり2万2477円だったが、今回の平均売り渡し価格は60キロ1万1556円で、入札の半額程度となり、引き渡し場所までの輸送費も国が負担する。


    コメ卸業界への具体的影響分析

    1. 市場価格競争力の大幅低下

    深刻度:極めて高い

    従来の入札制度では、集荷業者の落札価格は60キロ当たり2万円を超え、入札競争が備蓄米の価格をつり上げる一因になっているとの指摘があった。しかし、随意契約により価格が半額程度に設定されることで、卸業者が高値で調達した在庫の競争力が著しく低下する。

    業界への影響

  • 既存在庫の価値減少による含み損の発生
  • 価格競争力の喪失による市場シェア縮小
  • 利益率の大幅な圧迫
  • 2. 流通経路からの排除による取引量激減

    深刻度:極めて高い

    楽天の三木谷氏は、随意契約した備蓄米について取引先に精米を依頼してから販売することも想定している一方で、主要な流通ルートからは卸業者が排除される。

    JA全農の影響範囲
    JA全農は備蓄米の初回入札で全体の93.8%、2回目で94.2%を落札しており、随意契約への変更により最も大きな影響を受ける集荷業者となっている。

    3. 大手卸業者の業績好調と格差拡大

    現在の卸業界状況
    コメ販売数量トップクラスの卸売会社「木徳神糧株式会社」が2025年12月期の連結業績予想を上方修正し、純利益を従来の18億円から28億円に引き上げ、売上高も1650億円として過去最高益を更新する見通し。

    二極化の進展

  • 大手卸業者:価格転嫁により過去最高益を達成
  • 中小卸業者:随意契約による影響でさらなる経営圧迫
  • 4. 精米・物流コストの構造変化

    新たなビジネス機会の可能性
    楽天は玄米のままで販売することや、備蓄米と精米機をセットで売る可能性もあるとし、取引先に精米を依頼してから販売することも想定している。

    しかし、これらの業務委託における価格競争は激化が予想され、利益率の確保は困難と見込まれる。


    業界構造の問題点

    JA全農の市場支配と流通阻害

    JA全農は落札した備蓄米約19万9千トンのうち、5月1日時点で29%しか卸売業者に出荷していない状況があり、JA全農子会社の全農パールライスで精米してから販売することになり、パールライスと契約があるところにしかおコメは届かない状況で、川下に備蓄米が届きにくくなっている。

    転売と価格操作の懸念

    2024年産の備蓄米買い入れ契約で7事業者が規定数量を納入せず、コメ価格の高騰を受け、違約金を支払ってでも転売して利益を得たケースがあったとの報告もあり、市場の透明性に課題がある。


    随意契約の具体的実施状況

    申請企業と規模

    楽天グループが随意契約に参加する意向を示し、「かなりの量を販売できると思う」との見通しを示している。農林水産省は5月26日に買受申請を予定される方を対象にweb会議による売渡し説明会を開催している。

    価格目標の設定

    政府は5キロ2000円台で店頭に並べる方針を明らかにしており、早ければ6月初めに税別2000円程度で店頭に並ぶ見込みとなっている。


    今後の見通しと対策

    短期的影響(6か月以内)

  • マイナス影響が顕著:随意契約による低価格備蓄米の市場投入により、卸業者の価格競争力が急激に低下
  • 在庫評価損の発生:高値で調達した在庫の含み損が実現
  • 取引先の流出:小売業者が直接調達ルートに移行
  • 中長期的影響(1-2年)

  • 市場構造の恒久的変化:随意契約が常態化すれば、従来の卸売流通システムの意義が根本的に問われる
  • 事業モデルの転換必要性:精米・物流サービス特化への業態転換が必須
  • 業界再編の加速:中小卸業者の淘汰が進む可能性
  • 卸業者の対応策

    1. 事業構造の転換

  • 精米・包装・物流に特化したサービス業への転換
  • 大手小売業者との協業体制の構築
  • 2. 付加価値の創出

  • 特定品種・特定産地米の専門化
  • ブランド米の開発・販売強化
  • 3. 新規事業領域への展開

  • 食品加工事業への参入
  • 外食・中食向けサービスの拡充

  • 結論

    備蓄米の随意契約は、コメ卸業界に対して構造的で不可逆的な変化をもたらす政策変更である。短期的には利益率の大幅圧迫と取引量減少により業績に深刻なマイナス影響を与え、中長期的には業界全体の事業モデル転換を迫るものとなる。

    特に、JA全農のような大手集荷業者や、従来の流通ルートに依存してきた中小卸業者への影響は極めて深刻である。業界の生き残りには、従来のビジネスモデルからの根本的な転換と、新たな付加価値創出が不可欠となっている。

    政府の食料安全保障政策の一環として実施される随意契約だが、コメ流通業界の健全な競争環境の維持と、消費者利益の両立を図る制度設計の継続的な見直しが重要となるだろう。


    本レポートは2025年5月27日時点の公開情報に基づいて作成されており、今後の政策変更や市場動向により状況が変化する可能性があります。