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東宝不動産の買取価格決定事件

公開日:2025年06月06日
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東宝不動産の買取価格決定事件

1. 事件の背景と経緯

東宝不動産は東宝(映画会社)傘下の不動産会社で、帝国劇場や東宝ツインタワービルなど都心の一等地に優良不動産を多数保有していました。東宝は創業の地・日比谷の大規模再開発計画(新日比谷プロジェクト)を進める中で、子会社の東宝不動産を完全子会社化することを決定します。以下は本事件に至る経緯の概要です。

  • TOB(株式公開買付け)の実施(2013年1~2月): 東宝は2013年1月8日、東証1部上場の子会社・東宝不動産に対するTOBを1株735円で公表しました。735円という価格は、TOB公表直前の市場株価552円に約33%のプレミアムを乗せた水準でした。しかし同社の帳簿上の1株純資産は708円、さらに自社公表の含み益(賃貸不動産の含み評価益)は1株あたり約800円もあり、理論上は資産価値を反映すれば1株1,500円超になる状況でした。このため735円の買付価格は少数株主にとって到底納得できない低水準でした。
  • TOBの結果と株価の動き: 親会社東宝はTOB開始前に東宝不動産株の58.8%を保有していました。TOBの応募結果は低調で、応募株数は発行済み株式の約17.9%に留まりました(そのうち7.8%分は事前に応募契約を結んだ阪急阪神HDや東宝グループ会社等の持株)。この結果、東宝の持株比率は約76%に上昇し特別決議要件(2/3超)を満たしたものの、90%には達しませんでした。一方、市場ではTOB後も株価が急騰しました。投資家たちは「裁判で買取価格が引き上げられる」と見越してTOB価格735円を上回る価格で買い集め、株価はTOB価格を大幅に超えて上昇します。実際、TOB終了後の株価は上昇を続け、2013年3月8日には一時997円の高値を付けました。東宝不動産株はTOB公表後に急騰し、臨時株主総会での「追い出し決議」(スクイーズアウトのための決議)実施後にようやく735円近辺まで低下しています。
  • スクイーズアウトの実行(2013年6月): 東宝はTOB完了後、残る少数株主を強制的に排除するための手続(いわゆる「追い出し」)に踏み切ります。具体的には全部取得条項付種類株式の仕組みを利用し、東宝不動産を完全子会社化する決議を2013年6月の臨時株主総会で可決しました(東宝は約76%の議決権を握っていたため可決可能でした)。この決議に基づき、東宝不動産の残存株式は1株735円の現金対価で強制取得されることになり、2013年6月25日付で同社株は上場廃止となりました。なお、一般株主は会社法172条に基づき、公正な価格での買取りを裁判所に申し立てる権利(価格決定の申立権)があります。
  • 少数株主による価格決定申立(2013年~): 東宝不動産の少数株主らは提示価格735円に不服で、東京地方裁判所に買取価格の決定を申し立てました。2013年10月までに投資ファンドや個人投資家など10グループが申立てを行い、本格的な裁判闘争に発展します。主な申立人には、闘う個人投資家として知られる山口三尊氏のグループ、アクティビストファンドのエフィッシモ、ハワイに拠点を置く投資ファンドのプロスペクト・アセットマネジメント(全株の約5%を保有)などが含まれました。彼ら少数株主側は「735円は不当に安い。東宝不動産の資産価値等を考慮すれば1株2,000円以上が妥当だ」と主張し、価格引上げを求めています。
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