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7111 INEST 初回レポート

公開日:2025年10月07日
Note

 証券コード7111のINEST株式会社は、1996年に情報通信分野の⽀援事業で創業した。2005年に旧JASDAQ市場に上場し、2022年10月には東京証券取引所の市場区分見直しに伴いスタンダード市場へ移行した。2020年8月の経営統合を経て、現在の取次販売を主体とする事業へと大きく転換しており、2023年12月に株式会社プレミアムウォーターホールディングスが主要株主となったことで翌2024年1月にはエフエルシープレミアム株式会社を子会社化するとともに、小泉まり氏が代表取締役に就任するなど経営体制が大きく変化している。2024年4⽉にはソリューション事業の単⼀セグメントへ移⾏し、グループ全体のアセットを最⼤限に活⽤することで事業シナジーの最⼤化を追求する経営体制を構築している。


 同社の競争優位性の源泉は、多くの競合が依存するコールセンターだけでなく、イベントブースと店舗販売という対⾯チャネルを確⽴し、これらを組み合わせた全⽅位型のセールスプラットフォームを構築している点にある。この独⾃の販売網を基盤に、中期経営計画では以下のを重点戦略として掲げ、持続的な成⻑を⽬指している。

 ライフスタイルアドバイザー事業は、Renxa株式会社が展開し、不動産会社との提携ネットワークを活かし引越しという新⽣活のスタート地点で顧客を捉え、ガス・電⼒・光回線・宅配水といった必須のライフライン導⼊を多⾔語で⽀援する。ここで重要な収益源となるのが、独⾃のサブスクリプションサービスである「Smart Subscribe」(会員数約45,000人)と「Smart FUNction」(会員数約34,000人)である(2025年7月末時点)。これらはグルメやレジャーをお得に利⽤できる会員優待を基本に、通信デバイスの修理費⽤保険や近隣トラブル解決⽀援などをパッケージ化したもので、新⽣活の不安や不便を包括的に解消する付加価値を提供する。これら⾃社サービスは主にRenxaのコールセンターを起点にライフラインの案内と合わせて提案することで顧客との関係を深化させ、継続的な収益基盤を構築する戦略の中核を担っている。

 宅配⽔販売事業の対面販路においては、エフエルシープレミアム株式会社が担い、主に商業施設などでのイベントブースを通じて主要ターゲットであるファミリー層へ直接的にアプローチする。これは特に出産や⼦育てといったライフステージにある顧客に対し、安全な⽔という価値を提供する重要な接点となり⾼い成約率を実現している。収益モデルは短期的な⼀時⾦から安定的なストック収益へと戦略的に移⾏させており、国内宅配⽔市場のリーディングカンパニーであるプレミアムウォーター社の販売代理店として、INESTグループはその販売数の約30%という圧倒的なシェアを占め、このチャネルにおけるNo.1の地位を確⽴している。

 併売店舗事業は、エフエルシープレミアム株式会社が主体であり、全国に展開する店舗販売網を起点とする。元々は携帯電話ショップの全国展開が中心であったが、市場の成熟化を背景にその役割を単なる通信サービスの販売拠点から顧客の生活全般の課題を解決するライフコンサルティングの拠点へと戦略的に転換している。初回来店時の通信契約をきっかけにヒアリングを通じて結婚や住宅購入といったライフイベントを把握し、通信費・光熱費・保険・資産運用といった複雑な固定費の見直しまでをワンストップで提案する。しかし同社の本質的な強みはこうした利便性の提供に留まらない。店舗という物理的な拠点を活かして顧客と定期的なリアル接点を持ち、その時々の状況に合わせた最適な提案を続けることで強固な信頼関係を築くことこそが、競争優位性の基盤となっている。この戦略を⽀えるため今後3年間で店舗数を現在の約2倍にあたる200店舗以上に拡⼤する計画である。加えて、AI発話解析ツールの導⼊による営業⼈材の早期戦⼒化は同社のを⽀える重要な基盤となっている。

 これら3軸の重要戦略は、約350万⼈の顧客接点、全国を網羅するマルチチャネル体制、そして独⾃のノウハウに裏打ちされた質の⾼い営業⼒という同社が持つ競争優位性を最⼤限に活⽤するものである。今後もこれらの強みを活かし事業領域のさらなる拡⼤が期待される。


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 上記はINESTが開⽰しているデータを基に我々が独⾃に⾏った業績予想である。

売上⾼を継続的な収益源となるストック売上と⼀時的な収益であるフロー売上に分解し、将来の数値を予測している。なおフロー売上は全体の売上⾼からストック売上を差し引く形で算出している。また、本モデルの最⼤の特徴は、2026年3⽉期2Q以降、株式会社アイ‧ステーション(以下I S T)の株式譲渡に伴う連結除外を反映している点である。これにより、2Q以降の売上⾼は同社の事業規模が縮⼩することを前提に算出している。譲渡対象であるI S T社が主に担っていたのは、中⼩法⼈に対してモバイルデバイス・新電⼒・OA機器等の顧客ニーズに合った各種商品を取次販売する法⼈向け他社商材事業である。同事業は2025年3⽉期の通期売上⾼において17%を占める重要な収益源であったため、同社がPL連結から外れる2026年3⽉期2Q以降、グループ全体の売上⾼は前年同Q⽐で15%程度の減少が⾒込まれる。また、本株式譲渡における売却益は公式に公表されていないものの、150百万円程度と推定される。

 当モデルにおける売上高成長率の算定は過去のトレンドに加え、重要な経営方針の転換と事業効率化の取り組みを根拠としている。まず、26年3月期2Q以降の売上高が前年同期比で大幅なマイナス成長となるのはIST社の連結除外が直接的な要因であり、これは同社の実質的な成長率を示すものではなく事業ポートフォリオの変更に伴う会計上の影響である。次に同社が短期的な売上高ではなく最重要KPIであるストック利益を重視する方針へ転換した点を考慮している。この戦略転換は特に繁忙期である25年4Qに積み上げ効果が最大となりストック収益の一時的な急増をもたらしたが、本モデルではこの特殊要因を除いたオーガニックな成長率を算定の基礎としている。この戦略転換は短期的な売上成長率を抑制する可能性があるものの、収益の質を向上させると見込む。そしてAI活用により約30〜50名の新入社員の教育期間を平均6ヶ月から3ヶ月へ短縮した生産性向上も織り込んでいる。これにより新人営業人材が早期に戦力化され、特に労働集約的な事業の成長率を下支えする重要な要素となる。


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以上の予想と会社予想との⽐較を以下に⽰す。

 我々の予想では2026年3⽉期の予想は売上⾼・営業利益ともに上回り強気な予想となった。

 INEST株式会社の中期経営計画(FY24-FY28)は事業の「選択と集中」を通じて売上規模の追求から収益の質を重視する経営へと舵を切る明確な戦略転換を示すものである。同社は今後の最重要KPIを安定的かつ将来の予測性に優れるストック利益に設定しており、短期的な一時金収益に依存した構造から脱却し、高利益率の自社コンテンツなどを組み合わせストック収益の構成比を40%まで高めることで2028年3月期に営業利益20億円を計画している。なお、上記の来期予測値は同社が公式に発表している計画値と乖離する可能性がある点に留意が必要である。これはIST社の売却で得た利益の再投資効果を織り込んでいないためである。同社は売却益を今後の成長のために投資する方針を明言しているが、その具体的な使途や収益への貢献度は未公表であり、本モデルではその投資がもたらす将来的な収益拡大効果を保守的に評価している。本稿は同社の将来性を分析・解説するものであり、特定の株式の購入を推奨するなどの投資推奨にはあたらない。

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