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4479 マクアケ 初回レポート

公開日:2025年08月01日
Note

 証券コード4479 株式会社マクアケについて、今期及び来期にわたる業績予想について紹介する。同社は2013年5月に株式会社サイバーエージェント・クラウドファンディングとして創業し、2019年12月に東証グロース市場に上場している。同社は、応援購入サービス事業という単一のセグメント内で、Makuake・Makuake Incubation Studio・その他の3つのサービスを展開している。


 Makuake事業は、新しいアイデアや優れた技術を持つ事業者(プロジェクト実行者)と、作り手の想いや開発背景を理解した上で新商品やサービスを購入したい国内外の生活者(プロジェクトサポーター)をつなぐ応援購入サービスの中核を担うプラットフォームである。ビジネスモデルとしては、実行者が量産前のユニークな商品をMakuake上で先行販売し、サポーターはそれを応援の気持ちを込めて購入する仕組みとなっている。当社の収益は、主にプロジェクト実行者とサポーターから受領する手数料によって構成される。実行者からは、プロジェクト成立時に応援購入総額の20%を手数料として受領し、サポーターからは、安心して応援購入できる環境整備の対価として「安心システム利用料」を受領している。これらMakuake本体の手数料に加え、後述するMISやその他サービス群の売上が会社全体の売上高を構成している。そのため、会社全体の売上高を取扱高で割った指標である「テイクレート」は、Makuakeの基本手数料率である20%を上回る水準で推移しており、その超過分がMISや広告配信代行といった付随サービスの事業貢献度を示唆している。

 同社はこれら複数のサービスを連携させ、事業者が「企画フェーズ」「デビューフェーズ」「一般流通フェーズ」という事業展開の各段階において一気通貫の支援を受けられる体制を構築している。この一貫したサポートモデルにより、各サービスから蓄積されるデータを競争力の源泉として活用し、事業者との関係をプロジェクト単位の短期的なものから継続的なものへと深化させている。

 Makuake Incubation Studio(MIS)は、この事業展開における「企画フェーズ」を支援するインキュベーションサービスである。企業が持つ優れた研究開発技術や独自技術を活かした新事業の創出を目的とし、Makuakeが持つ顧客ニーズのデータやノウハウを活用して、技術の用途開発からプロモーション戦略の策定までを伴走支援する。これにより、企業は眠っていた技術を事業化する機会を得ることができ、当社はコンサルティングフィーを収益として得ている。

 その他のサービス群は、プロジェクトの価値を最大化し、特に「一般流通フェーズ」における事業成長を多角的に支援する役割を担っている。具体的には、「広告配信代行」「Makuake STORE」「Makuake Global」「Makuake SHOP」などが含まれる。広告配信代行は、SNS広告などを活用してプロジェクトの応援購入額の最大化を支援し、その手数料が収益となる。Makuake STOREは、プロジェクト終了後の商品を販売するECサイトであり、販売手数料を収益源とする。Makuake GlobalとMakuake SHOPは、それぞれ海外と実店舗への販路拡大を支援するサービスである。


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 上記はマクアケ株式会社が開示しているデータを基に我々が独自に行った業績予想である。

本業績予想は、以下のロジックでKPIを算出している。まずプラットフォーム上の取引規模を示す「応援購入総額」は、主要KPIである「月中アクティブプロジェクト件数」と「月次プロジェクト単価」の積を基礎として算出される。これらは月次ベースの指標であるため、四半期の数値を算出する際には3ヶ月分を乗じ、単位調整を行っている。

さらに、応援購入総額の予測精度を高めるためPERAGARUの応援購入総額データを活用している。上記グラフが示す通り、このデータは実際の応援購入総額の推移と高い連動性を示しており、両者の相関係数は直近2年9ヶ月で0.72と強い正の相関が確認されている。

 次に、売上高は取扱高(応援購入総額にサポーターからの安心システム利用料を加えたもの)と事業全体の収益力を示す指標であるテイクレートの関係性から導き出される。同社のテイクレートは単純な手数料率ではなくテイクレート=売上高/(取扱高/1.1)(税抜取扱高)で算出され、これにはMakuake本体の手数料に加え、広告配信代行やMISといった付随サービスの売上も含まれており、20%の基本手数料率を上回る部分がこれらのサービスの貢献度を示している。

以上の前提に基づき、マクアケの今後の業績は、事業戦略の転換を背景とした主要KPIの動向から分析することができる。同社は近年、事業の規模(アクセスUU数)を追う戦略から、事業の質を重視する戦略へと明確にシフトしていると推察される。サイト訪問者数(UU数)の大幅な減少は許容範囲内とし、サポーター一人当たりの熱量を示すプロジェクト単価を最重要KPIと位置づけている。この方針は人員計画にも反映されており、過去2-3年で50人程度減少した従業員数は今後、維持または微増に留め、LLMを積極的に活用して従業員一人当たりの生産性向上を最優先する方針に転換している。

 この戦略転換を象徴する最重要KPIであるプロジェクト単価は、3Qにおいても前年同期比32.3%増、前Q比11.6%増と力強い成長を継続している。これは、優良プロジェクトの獲得強化や、応援購入額の最大化に向けたサポート体制の仕組み化により、大型案件を再現性高く創出できていることが背景にある。ただし、当3Qにおいては一部の大型案件が想定を上回って伸長したことで、単価が一時的に大きく上昇した側面もあるそのため、今後も中長期的な成長は見込まれるものの、当3Qのような大幅な成長率が継続することは想定されていない 。とはいえ、この単価向上は従業員一人当たりの売上高および営業利益の急激な向上に直結しており、生産性向上の取り組みが着実に成果に結びついていることを示している。一方で、アクティブプロジェクト数も2Qを底として3Qには回復基調に入っており、事業基盤の安定化も進んでいる。

 また、3Qの売上高は、取扱高の増加に加えて広告配信代行を中心とした付随サービスが成長したことにより、前四半期比21.4%増となった。これは大型案件の増加が、付随する広告サービスの受注増に繋がる好循環が生まれていることを示している。

 特筆すべきは、3Qの取扱高は過去と比較して突出して高いわけではないものの、営業利益は大幅に改善し、累計営業利益は通期業績予想を35.5%超過する水準で着地した点である。これは、従業員数の最適化が進んだことで販管費が抑制され、一人当たり生産性が向上した結果に他ならない。この好調な利益を原資としながらも通期業績予想を据え置いたのは、中期経営計画の早期達成を見据え、4Qにマネジメント層向け研修やAIインフラ構築を中心に約5千万円の追加先行投資を決定したためである。これは来期から始まる本格的な再成長投資に向けた準備段階と位置づけられる。

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我々の予想では2025年9月期の予想は売上高、営業利益ともに会社予想を上回っており強気な予想となった。

 ただし、この予想を検討する上で留意すべき点がいくつか存在する。まず、業績を牽引するプロジェクト単価について、3Qの大幅な上昇は一部の大型案件が想定を上回ったことによる一時的な側面も含まれている 。そのため、今後も中長期的な成長は見込まれるものの、四半期ごとに同様の大幅な成長率を継続することは想定し難い 。

 当社の今後の成長戦略を理解する上で最も重要なのは、短期的な利益を中長期の成長基盤構築へと再投資するフェーズに移行している点である。会社側が3Qまでの好調な利益進捗にもかかわらず通期業績予想を据え置いたのは、まさにこの戦略の現れと言える。具体的には、中期経営計画の早期達成を見据え、4Qに外部プロ人材を活用したマネジメント層向け研修やAIインフラの構築を中心に、約5千万円の追加先行投資を計画している 。

この4Qの投資は、2026年9月期から始まる「再成長に向けた本格的な投資」の準備段階と位置付けられている 。また、新サービス「Makuakeインサイト」は、足元で受注は好調であるものの、本格的な収益貢献は2027年9月期からと見込まれており、長期的な視点での育成フェーズにある 。

 以上のことから、マクアケは最重要KPIであるプロジェクト単価の成長と、それを支える従業員一人当たりの生産性向上を両輪として、安定した収益成長フェーズに入ったと分析できる。そして、足元の好調な利益を原資として事業の「質」を高めるための先行投資を前倒しで開始しており、これらは2025年9月期に策定された中期経営計画の達成に向けた布石である。同計画では、2027年9月期までに売上高52億円・営業利益7億円という目標が掲げられている 。投資判断を下す際にはこのような点を踏まえた上で慎重に判断する必要があるだろう。


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