334A ビジュアル・プロセッシング・ジャパン IPOリサーチレポート
株式会社ビジュアル・プロセッシング・ジャパン(証券コード 334A)IPO 分析レポート
1.会社概要
企業ミッション・沿革
株式会社ビジュアル・プロセッシング・ジャパンは「ビジネスの自立と継続」を経営理念に掲げ、DAM(Digital Asset Management)を中核技術とするDXソリューション事業を展開する企業である。同社は「自社ブランドとして自立できるプロダクト」と「成長が見込まれる十分なサイズのマーケット」、そして「継続的な収益」の実現を通じて、顧客との長期的な信頼関係に基づく安定したビジネスの構築を目指している。
DAMマーケットにおける黎明期からの知見とノウハウを蓄積し、国内先駆者として「CIERTO DAM」の付加価値を高め、顧客のビジネスに貢献することでサスティナブルな社会の実現に関わることを使命としている。同社は1994年の創業以来、コンピュータグラフィックスや映像技術、印刷技術などの特殊な経験とノウハウを創業時から保有し、30年にわたってDAMサービス提供から得た知見を蓄積してきた。
創業から現在までの主要沿革:
代表者・主要経営陣の経歴・持株比率
代表取締役社長:三村博明(持株比率65.7%)
1956年3月27日生、沖縄県国頭郡恩納村在住。1980年日本エヌ・シー・アール株式会社入社後、1983年株式会社プライムコンピュータジャパン入社、1986年日本シリコングラフィックス株式会社(現日本ヒューレット・パッカード合同会社)入社し営業本部長を歴任。1994年当社設立時より代表取締役社長に就任(2013年一時会長職、2013年11月より再び社長職)。コンピュータグラフィックス技術の知見を背景とした豊富な経験と知識を有する。直接保有280,000株に加え、資産管理会社である株式会社シエルトコミュニケーションズを通じて640,000株を間接保有している。
主要経営陣:
2.ビジネスモデル・収益構造
サービス・製品別の提供形態・マネタイズポイント
同社は自社プロダクト「CIERTO DAM」を主力とし、DAM及びその周辺領域においてDXソリューションを提供している。事業は単一セグメントのDXソリューション事業で構成され、主にソフトウエアの開発・販売、保守サービスを提供している。
売上構成(2024年事業年度):
CIERTO DAM:
DAM技術を採用した同社事業の主力製品。静止画、動画、音声、テキスト、3D、アニメーションなどのデジタル素材やコンテンツを一元管理するシステム。膨大なデータを集約し、個々のデータに著作権、使用期限、使用権限等の情報を付加可能。ブラウザ上でのプレビュー機能、画像・動画の変換機能、他システム連携等の機能を有する。
主要機能として多岐にわたるファイルプレビュー(Adobe、PDF、Office、HTML、CAD等)、コンテンツの利用制限管理(著作権情報、肖像権管理、使用期限アラート)、AIの活用(類似画像検索、自然言語検索、自動タグ付け、OCR機能)を提供している。
CIERTO PIM:
商品情報管理システムとして、販促媒体・チャネルを通じたプロダクトのマーケティングと販売に必要な情報を管理。CIERTO DAMと連携することで、商品情報に加えて商品の写真や動画、3Dデータ等のリッチコンテンツをカタログ・ECサイト・Webサイト等の各種販促媒体に配信可能。2021年には国内開発としては初となるDAMと連携する商品情報管理システムとして発表された。
連携拡張サービス:
クラウド事業:
年額基本料や月額基本料等のサービスを継続的に提供するサブスクリプション型のビジネスモデル。顧客に移転されるサービスの提供期間にわたって収益を認識している。プロダクトの初期導入に係る収益は作業完了時に一時点で収益認識を行う。
オンプレミス事業:
製品販売による収益で、製品の引き渡し完了時に履行義務を充足する取引として一時点で収益を認識している。ライセンス購入後に顧客側のプラットフォームまたは自社内専用サーバーに搭載する形態。
主要KPI・収益の要素分解
主要KPI:
収益の要素分解:
収益形態は主にサブスクリプション型(月額サービス費用)とライセンス型(ライセンス費用一括払い)に分類される。導入後の獲得収入(月額利用収入、月額ライセンス保守収入、保守サポート等収入)が全体売上の約5割を占め、安定収入として重要な地位を占める。
同社の収益構造は、継続的な収益を生み出すクラウドサービスと保守サービスが全体の約67%を占める安定的な構造となっている。年額基本料・月額基本料を前受で収受するため、契約負債として計上され、サービス提供期間にわたって収益化される仕組みを構築している。
サブスクリプション型はクラウドタイプでの提供に適用され、月額のサービス利用料でCIERTO DAM|PIM、APROOVE WM、WoodWing Studioを利用可能。ライセンス型はオンプレミスでの提供に適用され、ライセンス購入後に顧客側のプラットフォームまたは自社内専用サーバーに搭載する形態。
3.業績サマリー(直近3期)
売上高・営業利益・営業利益率・YoY
第28期(2021年12月期):
第29期(2022年12月期):
第30期(2023年12月期):
第31期(2024年12月期):
第31期中間期(2024年6月期):
同社は3期連続で二桁成長を達成し、営業利益率も継続的に改善している。特に2024年事業年度では営業利益が前期比31.5%増と大幅な増益を実現し、営業利益率も15.2%まで向上している。
セグメント別売上・利益
同社はDXソリューション事業の単一セグメントのため、セグメント別の業績分析は該当しない。ただし、サービス区分別では、クラウドサービスが最大の収益源となっており、2023年12月期の491,015千円から2024年事業年度の576,769千円へと17.5%の成長を示している。
保守サービスも2023年12月期の217,281千円から2024年事業年度の237,032千円へと9.1%成長し、安定的な収益基盤を形成している。開発サービスは2023年12月期の125,036千円から2024年事業年度の215,515千円へと72.4%の大幅な成長を記録している。
CF・ネットキャッシュ
第29期(2022年12月期):
第30期(2023年12月期):
第31期(2024年12月期):
第31期中間期(2024年6月期):
営業キャッシュ・フローは堅調に推移し、投資活動では主にCIERTO開発費用による無形固定資産取得(自社開発のソフトウエア「CIERTO」の開発に31,997千円を投資)、財務活動では長期借入金返済が主要な支出要因となっている。同社は実質無借金経営を実現しており、2024年12月31日現在で長期借入金残高はゼロとなっている。
4.市場規模・競合優位性
TAM/SAM/SOM・業界成長率
調査会社Marketsandmarkets Research Private Ltd.の2024年4月調査レポート「DIGITAL ASSET MANAGEMENT MARKET-GLOBAL FORECAST TO 2028」によると、世界市場におけるDAMの市場規模は2028年に87億800万米ドルに達すると推定され、年平均成長率13.0%で成長すると予測される。
アジア・パシフィック(APAC)市場については、2028年に21億4,100万米ドルに達すると推定され、年平均成長率15.7%で成長予測。日本市場については、2028年に2億6,100万米ドルに達すると推定され、年平均成長率13.7%で成長すると予測される。
DAMの歴史は1990年代に米国で始まり、2000年代に欧米で広がりを見せた比較的新しい分野。日本市場においても、同社が1997年に米国Archetype,Inc.の「MediaBank」を販売開始したことで今日に至る。同社の売上高成長率(2023年15.9%増、2024年14.4%増)は市場の拡大を反映していると考えられる。
競合マッピング・差別化要因
主要差別化要因:
1994年の創業以来、顧客や社内メンバー間での対話を通し現場の生の声を拾い続けることでDAMに係る知見とノウハウを蓄積。コンピュータグラフィックスや映像技術、印刷技術などの特殊な経験とノウハウを創業時から保有し、30年にわたる業界経験が参入障壁となっている。
2016年リリース以来順調に販売ライセンス数を増加。2021年には国内開発としては初となるDAMと連携する商品情報管理システム「CIERTO PIM」を発表。世界的に見てもDAMとPIMを一体化した自社製品は稀有な存在である。
30年にわたるDAMサービス提供から得た知見とノウハウをもとに、導入時の十分なコンサルティングと導入後の万全なサポート体制を構築。開発者、コンサルティング担当者及びサポート技術者による役割分担を実施している。
サブスクリプション型によるクラウドタイプ、ライセンス型によるオンプレミスタイプを主力とし、両者の中間をなすハイブリッド型も用意。特許技術「FSモニター」によりファイルシステムとデータベースの整合性を保持している。
クラウドサービスと保守サービスで全売上の約67%を占める安定的な収益基盤を構築している。
Five Forces分析
新規参入の脅威:中程度
DAM市場は技術革新が速く専門的な知見が必要な分野であり、30年の経験とノウハウが参入障壁となる。一方で、市場成長に伴い新規参入者の増加可能性がある。DXソリューション市場は技術的な参入障壁が存在するものの、市場の成長性から新規参入者の脅威は一定程度存在する。
代替品の脅威:中程度
一般的なクラウド型オンラインストレージサービスが代替品として存在するが、DAMが必要とするワークフロー機能等は整備されていない状況。ただし、機能拡張により代替品化する可能性がある。デジタル化のニーズは多様化しており、代替ソリューションの選択肢は豊富に存在する。
買い手の交渉力:低程度
顧客企業の販促活動における媒体・コンテンツ制作の内製化が進み、DAMソリューションの需要が高まっている。専門性の高いサービスのため顧客の交渉力は限定的。
売り手の交渉力:低程度
自社開発製品が中心のため、外部ベンダーへの依存度は比較的低い。海外パートナー製品(APROOVE WM、WoodWing Studio)については一定の依存関係がある。
既存競合の脅威:中程度
海外ベンダーは存在するが日本市場でのサポート体制が不十分、国内ベンダーはオンラインストレージサービスの機能拡張レベルにとどまる。ただし、競争環境の激化可能性がある。
5.ガバナンス・株主構成
主要株主・ロックアップ条件
主要株主構成(2025年1月31日現在):
代表取締役社長三村博明は直接保有280,000株に加え、資産管理会社である株式会社シエルトコミュニケーションズを通じて640,000株を間接保有しており、実質的な持株比率は65.7%となる。2023年12月28日に資産管理会社設立により640,000株を移転している。
ロックアップ条件については目論見書に具体的な記載がないが、一般的なIPOにおけるロックアップ条件が適用されると想定される。
独立社外取締役比率・指名・報酬委員会の有無
取締役会構成:
取締役5名中、独立社外取締役1名(比率20%)。代表取締役三村博明を議長とし、取締役吉川美幸、取締役小菅暁史、取締役松本勝裕、社外取締役安藤秀樹で構成。
監査役会構成:
監査役3名中、社外監査役2名(比率66.7%)。常勤監査役関郷を議長とし、社外監査役西村洋二郎、社外監査役藤川幸廣で構成。
委員会設置状況:
指名委員会・報酬委員会は設置されていない。取締役の報酬は取締役会で決定され、代表取締役が原案を作成し社外取締役・社外監査役から意見を聴取する仕組み。監査役の報酬は監査役会の協議により決定。
新株予約権の状況:
本書提出日現在における付与株式数は66,000株で、発行済株式総数1,400,000株に対する潜在株式数の割合は4.71%。主要経営陣への付与状況は、松本勝裕8,000株、吉川美幸800株、小菅暁史2,000株となっている。
6.資金使途・成長戦略
調達資金の配分
公募増資による調達資金については、優秀な人材確保のための採用費及び増員分の人件費、オフィス拡張に伴い増加する地代家賃、及び広告宣伝費用(展示会出展費用、SEO対策費用及びその他広告宣伝費用)に充当予定。IPOによる調達資金の具体的な使途については、継続的な技術開発投資やソフトウエア開発への投資が予想される。
中期経営計画の数値目標
重要経営指標:
成長戦略:
各業界について専門的な知見を有する販売代理店の拡充。ハートコア株式会社へのCIERTO DAMのOEM供給等の成果を活用し、さらなる販売パートナー拡充を推進。
海外展開の可能性を視野に入れ、特にAPAC地域を中心に市場調査を実施。米国調査会社G2.comの2024年度秋版において「Asia Pacific Leader」の称号を獲得した実績を活用し、ビジネスパートナーの発掘を継続。
DAMの有用性向上に向け、海外ビジネスパートナーとの連携強化、国内においてはHeartCore CMS、Shopify、BOX等との連携強化を推進。CIERTOと様々な外部ソリューションとの連携開発により競争力を向上。
主力事業であるクラウドサービスのさらなる拡大を図る。
自社開発ソフトウエアの機能向上と新製品開発を推進する。
7.リスク要因
主要リスク(重大度×発生確率による3段階マッピング)
【高リスク】
人材の確保と育成について:
高い専門性を備えた人材(開発者、コンサルティング担当者、サポート技術者等)の採用、育成、維持が事業継続・発展・成長に不可欠。必要な人材確保が計画通りに進まない場合、事業上の制約要因となり経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性。
新株予約権の行使による株式価値の希薄化について:
本書提出日現在における付与株式数は66,000株で、発行済株式総数1,400,000株に対する潜在株式数の割合は4.71%。新株予約権が行使された場合、既存株主が保有する株式の価値及び議決権割合が希薄化する可能性。
【中リスク】
特定のサービスへの依存について:
売上高全体のうち主力サービス「CIERTO」の売上高は約8割(2023年12月期)を占める。様々な外部要因により「CIERTO」の売上高が著しく減少した場合、経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性。
技術革新について:
DAM市場は技術革新が速く、優位性維持のため技術革新への即座な対応が必要。技術革新に対応できない場合、または対応できないような技術革新が生じた場合、経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性。DXソリューション市場は技術革新のスピードが速く、継続的な技術開発投資が必要である。技術トレンドへの対応が遅れた場合、競争力の低下につながる可能性がある。
システム障害について:
DXソリューション「CIERTO」はインターネット接続環境の安定した稼働が事業運営の前提。予期せぬ自然災害や不正アクセス等により安定的なサービス提供に支障をきたす可能性。
情報セキュリティ及び個人情報等の漏えいについて:
「CIERTO」では顧客情報や知的財産情報等を保有。外部からの不正アクセス、システム運用における人的過失、従業員等の故意等による情報漏洩等が発生し適切に対応できない場合、信用失墜又は損害賠償による損失等が生じる可能性。
特定人物への依存について:
代表取締役社長三村博明は創業者であり、営業戦略及び開発に関する豊富な経験と知識を有し、経営方針や事業戦略の決定・遂行に極めて重要な役割を果たす。何らかの理由により業務遂行が困難となった場合、事業運営等に影響を及ぼす可能性。
顧客集中リスク:
売上高の10%以上を占める特定顧客は存在しないとされているが、主要顧客の動向が業績に与える影響は注視が必要である。
繰延税金資産の回収可能性リスク:
繰延税金資産38,053千円(2023年12月31日現在)の回収可能性は、将来の売上高見積りに依存している。実際の課税所得が見積りと異なった場合、繰延税金資産の金額に重要な影響を与える可能性がある。
【低リスク】
市場環境について:
DAMの世界市場規模は年々成長を続け、2028年度には87億800万米ドルに及ぶとの調査結果。しかし市場の成長ペースが鈍化した場合、または市場拡大が進んでも同様のペースで順調に成長しない可能性。
競合他社の動向について:
現時点で海外ベンダーは存在するが日本市場でのサポート体制が不十分、国内ベンダーはオンラインストレージサービスの機能拡張レベル。類似サービスや同様システムを提供する国内ベンダーの参入等により競争環境が激化し優位性が損なわれる可能性。
法的規制について:
電気通信事業法、著作権法、不正アクセス行為の禁止等に関する法律等の基本的な事業活動に関わる法的規制を受ける。これらの法的規制が改正・厳格化されることによりサービス提供に制約が生じた場合、事業運営等に影響を及ぼす可能性。
為替変動リスク:
本邦以外の外部顧客への売上高がないため、為替変動の直接的な影響は限定的である。
金利変動リスク:
実質無借金経営のため、金利変動の影響は軽微である。
特記事項
同社は2007年2月に情報セキュリティマネジメントシステム「ISO/IEC 27001(JIS Q 27001)」の認証を取得し、システム上のセキュリティ対策やアクセス権限管理の徹底を図っている。また、役員を含む全従業員に対して適切な研修や情報セキュリティを含むコンプライアンスチェックを継続的に実施している。
同社は2022年に関係会社であるCierto Communication Corp.の事業活動停止に伴う関係会社整理損を計上している。現在も繰延税金資産として12,372千円が計上されており、過去の投資リスクが財務諸表に反映されている。
総合評価:
株式会社ビジュアル・プロセッシング・ジャパンは、DAM市場における国内先駆者として30年の経験と知見を蓄積し、自社開発製品「CIERTO」を中核とした安定的な事業基盤を構築している。年平均成長率13.7%が予測される日本DAM市場において、技術的優位性と顧客基盤を活用した成長が期待される。
同社の強みは、継続的収益を生み出すサブスクリプション型ビジネスモデルの確立にある。クラウドサービスと保守サービスで全売上の約67%を占める安定的な収益構造により、3期連続で二桁成長を達成し、営業利益率も15.2%まで向上している。実質無借金経営による財務の健全性も評価できる。
技術面では、世界的に見てもDAMとPIMを一体化した自社製品は稀有であり、特許技術「FSモニター」による技術的優位性を保持している。米国調査会社G2.comの2024年度秋版において「Asia Pacific Leader」の称号を獲得した実績は、APAC地域への展開可能性を示している。
一方で、主力サービス「CIERTO」への依存度の高さ(売上の約8割)、人材確保の課題、技術革新への対応等のリスク要因に対する適切な管理が重要となる。特に、高い専門性を備えた人材の確保と育成は事業継続・発展・成長に不可欠であり、短期的な重要課題として認識される。
IPO後は、販売パートナーの拡充、APAC地域での市場調査、連携ソリューションの拡充を通じた事業基盤の拡大が成長の鍵となる。サブスクリプション型ビジネスモデルによる安定収益基盤と、APAC地域への展開可能性を含めた成長戦略の実行力が企業価値向上の重要な要素となる。