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8203 MrMax HD 初回レポート

公開日:2025年08月26日
Note

 証券コード8203株式会社MrMaxHDについて、今期及び来期にわたる業績予想について紹介する。同社は福岡県に本社を置く、九州を地盤とする総合ディスカウントストアを運営する企業である。1950年1月に有限会社平野ラジオ電気商会として設立されたことに始まる 。1961年3月には平野電機株式会社へ改組し、ディスカウントストア事業に進出した後、1980年8月に社名を株式会社ミスターマックスに変更 、さらに1984年8月には株式会社MrMaxへと改めている 。

事業拡大とともに、1986年4月に福岡証券取引所に上場を果たした 。2017年9月には持株会社体制へ移行し、商号を株式会社ミスターマックス・ホールディングスに変更。同時に、ディスカウントストア事業を新設子会社の株式会社ミスターマックスに承継している 。2022年4月には、東京証券取引所の市場区分見直しに伴いプライム市場へ移行した 。

 ミスターマックスグループは、持株会社である株式会社ミスターマックス・ホールディングスと、中核子会社の株式会社ミスターマックス、物流を担う株式会社ロジディアなどで構成されている 。グループ全体として、小売およびこれに付随する事業の単一セグメントであり、他の事業セグメントはない 。

 小売事業(株式会社ミスターマックス)では家庭用電化製品、日用雑貨、衣料品、食品などをセルフサービス方式で販売する総合ディスカウントストア事業を展開している 。そのビジネスモデルの根幹は、「エブリデイ・ロープライス(EDLP)」であり、生活必需品を中心に毎日低価格で商品を提供することに注力している 。これを実現するため、仕入ルートの見直しや業務効率化による「エブリデイ・ローコスト(EDLC)」を徹底している 。近年の状況としては、物価高騰に対応した値下げ企画や、PB商品の開発・販売強化が奏功している 。特にPB商品は、家電製品から食品、キッチン用品まで幅広く展開し、2026年2月期1Qには売上高構成比が21.6%に達するなど、成長を牽引する重要な要素となっている 。九州地方を基盤としながら、中国地方や関東地方にも店舗を展開し、オンラインストアにも力を入れている。

 持株会社事業(株式会社ミスターマックス・ホールディングス)ではグループ全体の経営管理を担うとともに、ショッピングセンターの運営事業も手掛けている 。ここからえられる収入が不動産賃貸収入に該当し、主にショッピングセンターに入居するテナントからの賃料で構成される。経営戦略として、2029年2月期を最終年度とする中期経営計画を策定し、「売上高2,000億円/営業利益100億円」を目標に掲げている 。目標達成のため、北部九州エリアと首都圏を中心とした新規出店(25店舗)、オンラインと実店舗を融合させたオムニチャネル戦略、M&Aや新規事業戦略を3つの柱としている 。

 物流事業(株式会社ロジディア)は2022年11月に設立された子会社で、グループのサプライチェーンにおけるサード・パーティー・ロジスティクス事業を担っている 。グループ内の物流効率化だけでなく、他社物流業務の請負も成長戦略の一つとして掲げている 。

 小売事業以外の収益として計上されるその他の営業収入は、主に株式会社ロジディアが手掛ける他社物流業務の請負収入や、店舗の屋上などに設置した設備による太陽光発電の売電収入などが該当する。

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上記はMrMaxHDが開示しているデータを基に我々が独自に行った業績予想である。

 売上高は、中期経営計画の最終目標である2029年2月期の売上高2,000億円から逆算し、その達成に向けた道筋を予測している。既存店の成長ドライバーとしては、プライベートブランド(PB)商品の強化や店舗改装の効果等が挙げられる。特に、積極的に進めている店舗改装は、単なる売上高や利益率の向上に留まらない。オペレーションの効率化と顧客利便性の向上をも同時に目指すものである。従来、主通路には集客力のある消耗品の特価商材を配置していたが、顧客が主通路のみで買い物を終えてしまい、定番売場への回遊を促せないという課題があったが改装によって、主通路をキッチン用品や生活雑貨中心の売場へと変更し、食品や洗剤といった消耗品は売れ筋に絞り込んで定番売場内で展開することにより、顧客の店内回遊性を高め、店舗全体の売上機会の最大化を図る。同時に、オペレーション効率を意識した配置・陳列へ変更することで、店舗運営の円滑化も実現する。2026年2月期は創業100周年記念販促が計画されており、こうした改装の効果と合わせて集客と売上の両面で追い風となることが期待される。また、中期経営計画では5年間で25店舗という積極的な拡大策を掲げているが、当期の出店は2店舗の計画で、大きくビハインドしているが着実に成長の礎を築いていく方針である。

 利益構造については、売上総利益率と販管費比率が安定的に推移することを前提としている。売上総利益率は、利益率の高いPB商品の構成比を長期的に30%まで高める戦略により、微増傾向で推移する見込みである。一方で販管費は、ベースアップに伴う人件費の増加が避けられない。しかし、このコスト増はセルフレジの全店導入拡大といったDX投資による生産性向上で吸収する計画であり、結果として売上高販管費率は安定を維持すると予測する。これらの結果、中期的な営業利益率目標である5%の達成を目指すものである。

 事業戦略としては、3つの成長戦略を柱に据えている。収益の核である店舗戦略では、前述の改装を継続しつつ、中期計画に基づいた着実な新規出店を推進する。将来の成長ドライバーと位置付けるオムニチャネル戦略は、オンラインとリアルの融合による顧客体験価値の向上を核とする。オンラインストアの会員数は順調に増加し、2024年8月には累計20万人を突破した 。現状の売上規模はまだ大きくないものの、オンライン購入者の約半数が店舗受け取りを選択しており 、これが新たな来店動機を創出している。さらに、リアル店舗とオンラインストアを併用する顧客の年間平均購入額は、いずれか一方のみを利用する顧客に比べて約1.7倍に達するという強い相関関係が確認されており、オムニチャネル化が顧客生涯価値の向上に直結することが示されている。最短5時間で商品を届ける「即配サービス」も、対象エリアを福岡市近郊の65万世帯へと拡大し、利便性を高めている 。これらの取り組みを強化し、5年後の2029年2月期にはオムニチャネルの売上高構成比10%の達成を目指す。加えて、現段階で具体的な計画はないがM&Aや自社物流網を活用した新規事業、海外展開なども視野に入れ、持続的な成長を目指す方針である。


以上の予想と会社予想との比較を以下に示す。

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我々の予想では2026年2月期の予想は売上高、営業利益ともに会社予想を上回っており強気な予想となった。

同社の戦略には、今後の小売業界の潮流を捉えた、事業の根幹に関わる2つの点で特筆すべき将来性が見出せる。

 1つ目は、「プライベートブランドの進化とカスタマイズ化」である。かつて市場の大半を占めた画一的な価値観を持つマス消費者層は縮小し、現代は節約志向から社会貢献意識まで、消費者の価値観が極めて多様化・細分化している。この環境下で小売業が生き残るには、PBを単なる「ナショナルブランド(NB)の廉価版」と位置付ける旧来の戦略から脱却し、多様な価値観に応える商品を自ら企画・開発する「ブランドメーカー」へと進化することが不可欠である。ミスターマックス社が中期経営計画でPB構成比30%という欧米の小売企業に匹敵する高い目標を掲げているのは、まさにこのビジネスモデル転換への強い意志の表れと言える。同社がアプリを核としたオムニチャネル戦略で収集する顧客データは、単なる販促ツールではなく、多様化する消費者を深く理解し、彼らの求める価値(価格、機能、情緒、社会性)を具現化したPBを開発するための羅針盤となる。このデータ起点のPB開発こそが、売上総利益率の改善と持続的な成長を実現する上での要諦となるであろう。

 2つ目は、「リアル店舗の役割の進化」である。デジタル技術の浸透により、リアル店舗が持つべき本質的な価値は、商品を陳列・販売する場所から、顧客との多様な接点を結ぶハブへと変化している。同社の戦略は、この変化を的確に捉えている。オンライン購入者の約半数が店舗受け取りを利用しているという事実は、同社の店舗がECの物流を支えるダークストアとしての機能を既に担っていることを示している。これは単に顧客の利便性を高めるだけでなく、オンラインでは生まれ得なかった来店動機を創出し、店舗での予定外の購入を誘発する効果も持つ。さらに、24年6月のオンラインでの医薬品販売の開始は、この物理的な拠点を活用して、地域住民の健康を支える「健康ハブ」という新たなサービス領域へ踏み出す第一歩と考察することも可能である。このように、同社のリアル店舗は販売機能、物流機能、サービス提供機能が融合した多機能ハブへと進化を遂げつつあり、オムニチャネル戦略を通じて顧客との関係を深化させることで、競合との差別化を図る成長戦略の核心となっているのである。投資判断を下す際にはこのような点を踏まえた上で慎重に判断する必要があるだろう。

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